第四話 「この村では皆平等だ。人間も、ドラゴンも」
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翌朝、村全体を見渡せる高台では真っ赤なドラゴン、もといリリーが体を休ませていた。
昨夜の出来事の後、ノアのもとに戻る勇気が出ず、結局一晩外で過ごしていたのだ。
どうせ王の傍にはあの人間がいるもの。私なんて……。
何も考えず飛び出したリリーは、誰にも会わないようにと人通りの少ない方へ進むうちに、この高台に辿り着いていた。
世界の色が失われたようなリリーの気持ちとは裏腹に、空は晴れ渡り、心地の良い風が吹いている。頭上の太陽は眩しいほどにリリーを照らし出す。
そのすべてが腹立たしく、憎々しく思え、リリーは人型になり、どうにか鬱憤をはらそうと歩き出した。
「ここ、果物食べ放題じゃない」
リリーが歩いた先で見つけたのは、みずみずしい果物や野菜が辺りいっぱいに生っている菜園だった。
ふと目についた赤く熟している果物を木からひとつもぎ取り、恐る恐る齧ってみる。
「美味しい……!」
城でも果物が出てくることはあったが、ここまで甘く果汁が溢れてくるようなものは食べたことがなかった。
あっという間にひとつ完食すると、もうひとつ。そしてまたひとつ。初めて食べる新鮮な果物を前にリリーの手は止まらない。
「あー! どろうぼうさんだー!」
リリーが食べるのに夢中になっていると、小さな女の子が木の後ろからひょこっと顔を出した。
リリーを指差し、泥棒だと騒いでいる。
「失礼ね。誰が泥棒ですって?」
「真っ赤なお姉ちゃんのことだよ!」
睨みつけるリリーを怖がりもせず、女の子は続ける。その態度が気に食わないリリーは、一度食べる手を止め、女の子の顔を覗き込む。
「その目、人間ね。ドラゴンを舐めるんじゃないわよ」
「あっちに食べていい果物あるから、あたしが連れてってあげる!」
かがみ込んだリリーの手を取ろうと、女の子が小さな手を伸ばした。
リリーは焦ってその小さな手を振り払う。睨みつけることで、女の子が逃げ出すことはあっても、まさか近づいてくるなんて想像もしていなかったのだ。
「う、うぇーーーーん!!」
ドラゴンであるリリーの爪は鋭い。慌てて手を振り払った拍子に、リリーの爪が女の子の頬をほんの少しかすめてしまったのだ。
鋭利な爪は女の子の頬に一筋の赤い線を残した。
人間なんてどうなってもいい。心底そう思っているリリーだったが、初めて人間の子どもを前にし、泣きわめく小さな生き物をどうしたら良いのか分からなくなってしまう。
「いたいよーー!」
「そ、そんなの大したことないじゃない! 泣き止みなさいよ!」
リリーが何を言っても、女の子の泣き声は大きくなるばかり。
「おい! どうした!?」
騒ぎを聞きつけた村人が、集まってきた。
「お母さーん!」
その中に母親もいたようで、女の子は一目散に走っていく。
「この傷……どうしたの!?」
「お姉ちゃんのつめがーー!」
頬の傷を見た村人たちの視線は、そのままリリーへと向けられる。その責めるような視線にリリーは声を張り上げる。
「何よ! 私は悪くないわよ!」
そしてリリーが片手を上げると、そこにボッと炎が現れた。
「やめてもらおうか」
黒髪の男が、炎の出ている方の手首を掴み上げた。
「離しなさいよ!」
振り払おうと力を入れるが、その手はびくともしない。リリーが顔をあげると、金色の瞳が見つめ返していた。
リリーはドラゴンの中でも自分が強いと自覚していた。だからこそ、王の傍で仕えしてきたのだ。その自分がこうも簡単に動きを封じられるとは。
リリーの動揺を見抜いたのか、男の口元が少し笑ったように見えたが、金色の目はまったく笑っていない。
リリーは背筋が冷たくなるのを感じた。
「この村では皆平等だ。人間も、ドラゴンも」
リリーの手首をグッと引き寄せ耳元で囁くように耳打ちすると、男は手を離し、村人の方へ振り返っていた。
「さあ、みんな行こう。早く手当もしないとだ」
促されるように村人たちは、その場から離れていった。
「何なのよ……」
取り残されたリリーは呟くように言い、男に掴まれた手首を見つめていた。




