第二話 「世話のやけるやつだな」
「村長!」
集団の中に道が開かれ、後ろから老婆がゆったりとした歩調で歩いてくる。リリーとローマンは、少しずつ近づいてくるその姿を見つめていた。
老婆の右目は眼帯で覆われ、左目は鋭く金色の光を放っている。全身は布のマントに包まれ、小柄なのは分かるが全容が見て取れない。
「ババアはひっこんでなさいよ!」
「お、おい」
攻撃をしかけるリリーを止めようとしたローマンだったが、時すでに遅し……。
リリーは地面を力強く蹴り上げ、集団へと飛びかかっていた。
「痛たいっ!」
リリーの目には地面が映っていた。
「まったく。老兵を戦わせるんじゃないよ」
「ちょっと! どきなさいよ!」
リリーの上に、静かに座る老婆。ローマンはそれをどこか愉快そうに見ていた。
「俺は止めたからな。そのばあさん、ただ者じゃねえよ」
ローマンは老婆の力量を見定めるかのように、ギラギラと目を輝かせていた。
「うむ。それより、王が危ないんじゃないのかい」
老婆はリリーの上から、この騒ぎの中でも目を覚まさないノアへと視線をやった。
「おい、お前たち! 王を村まで運ぶから手伝いな」
「はい!」
今までリリーたちに武器を向けていた集団が、てきぱきと動き始め、ノアを運ぶ準備をしていく。
「ちょっと! 王に何かしたら許さないからね!」
「黙りな、小娘」
老婆がリリーの頭をパンッと叩いた。
リリーの小さな反抗を横目に見つつ、ローマンはずっと黙ったままのオリヴィアへ視線を向ける。
ノアが運ばれていく様子を、理解しているのか、いないのか。焦点の合っていない視線をノアに向けている。
先ほどのいざこざの間も、オリヴィアはノアの隣で座ったままだった。
連れて行かれるノアを見て、頭のどこかでは自分も行かなくては、と思っているが体が動かない。
「世話のやけるやつだな」
「へっ!?」
ノアを見ていたはずの視界が急に動き、お腹に圧迫感を覚えたオリヴィア。
ローマンがオリヴィアを、小脇に抱えるようにして持ち上げたのだ。
急速にオリヴィアの頭が回転し始める。
「私、あの、歩けます! だからおろして下さい!」
ずっと放心状態だったオリヴィアが声を出したことに、ローマンは笑みをこぼした。
「まーまー、大人しくしてろって。そんで、後でちゃんと王に元気な顔見せてやんな」
運ばれていくノアの後ろを、周囲の視線を集めつつ、オリヴィアは抱えられていくのだった。
「ちょっと! 王が行っちゃうじゃないのよ! いい加減どいてよババア」
「はあ……」
老婆はひとつため息をついてから、ひょいっとリリーの背中から降り、そのまま行列の中へと紛れ込んでいく。
リリーも慌てて立ち上がると、一行の後ろを追っていくのだった。




