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第一話 「あんたたち人間のせいよ!」

 雲の隙間から漏れる僅かな月明りが地上を照らし出す頃、静かな夜の中、ドラゴンの翼が風を切る音だけが木霊する。

 風に流された雲が途切れ、夜空に輝く星たちが姿を現す。静謐な夜を染める星のまたたき。


 美しいそれら一切が、先を急ぐ二匹のドラゴンの目には映らない。彼らはただ必死に翼を動かし続ける。何かを咥えている茶色のドラゴン。苦しさに耐えきれず翼の動きが弱まり、高度が下がっていく。

 それを察した、もう一匹の赤いドラゴンが素早く地面に舞い降り、その姿を人型へと変えた。


「王は無事!?」


 限界を迎えたドラゴンも地面に降りると、ゆっくりと咥えていたものを下ろし、人型へと変わる。

「うるせえな。少しは休ませろ」


 ローマンの苦情を無視したリリーが、叫ぶような声をあげながらノアのもとへと駆け寄った。


「王!!」


 リリーが声をかけるも、ノアは微動だにしない。顔は土気色で、固く瞳を閉じたまま。ノアの様子に恐怖を覚えたリリーは、ノアの胸元に耳を押しつける。

 自身の早鐘を打つような心臓の音、乱れた呼吸がうるさい。一度息をゆっくりと吐き、耳に全神経を集中させる。


 ドクン……ドクン……。


 ノアの心臓の音が聞こえ、胸を撫でおろす。

 そして、ノアの横で呆けているもうひとりにリリーが鋭い視線を向けた。


「あんたたち人間のせいよ!」


 リリーが殺気を放ちながらオリヴィアの胸ぐらを掴み上げ、至近距離で睨みつける。オリヴィアに反応はない。目の前にいるはずなのに視線が合わない。どこか暗闇を見ているようだった。

 リリーは舌打ちをしながら、オリヴィアを勢いよく突き放す。イラつきを顕にするように、頭を掻きむしった。


「ってか、ここどこだよ」


 ローマンが辺りを見回す。リリーもつられて周囲に目をやるが、全く見覚えのない風景が広がっていた。


 草木が生い茂り、月の光を受けている。 

 ふたりは見たことのない光景に、どこか不思議な感覚を覚えていた。


 次の瞬間、ローマンが素早い動きで体勢を整える。


「おい、何か来るぞ」


 ノアを庇うように、向かってくるものと対峙する。

 リリーも瞬時に臨戦態勢をとり、周りを警戒する。


 やがて彼らは気が付いた。いつの間にか大勢に囲まれていることに……。

 よく見ると、松明を手にする者、槍や弓など武器を持っている者もいる。


「こんなところまで人間がいるなんてね。しかも大量に」

「いや。よく見ろ」


 ローマンが周囲から目を逸らさずに言った。


「……! まさか、ドラゴン!? どうして人間なんかといるの!」


 夜の暗闇。黒、茶色をした人間の目に混ざり合うように金色の目がいくつも輝いている。


 ローマンがチラッとリリーへ視線をやる。


「この数のドラゴンを相手にするのは、さすがに俺らふたりじゃ厳しいぜ」

「……そんなこと言ったって。やるしかないでしょ!」


 そう言いながら、リリーは腰を低くかがめ、いつでも攻撃できる体勢をとった。

 それを見た周囲の者たちも、武器を構え、場の緊張感が一気に高まる。重く息苦しい沈黙の中、大勢と二匹が睨み合う。


「そこまでっ!!」


 場の全てを断ち切るかのように、低い透き通った声が響いた。

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