第二十二話 「ダメ?」
夕食の準備を終え、食事を運ぶオリヴィアとマーヤ。食堂の扉をノックし、ふたりで扉を開く。しかし、そこには誰の姿もなかった。
「誰もいらっしゃらないわね」
「あの事件のせいかな」
オリヴィアとマーヤは、いったん食堂でドラゴンたちが来るのを待つことにした。
できる限り、料理が冷めないよう気を遣いつつ待ってみたが、時間が経ってもドラゴンたちは現れなかった。
ふたりは仕方なく、冷めてしまった料理を使用人部屋へと持ち帰る。
「結局誰もいらっしゃらなかったわね」
「そうね。何にもないと良いんだけど……」
使用人部屋へと戻ったオリヴィアとマーヤ。マーヤは先ほどの話の続きをしたがっていたが、オリヴィアはノアの部屋へ行く時間を迎えていた。
リアムの話の続きもしたいが、だからといって仕事を疎かにするわけにはいかない。素直にそう伝えるとマーヤも納得し、オリヴィアはノアの部屋へと向かうのだった。
ノアの部屋の前に立ち、オリヴィアは扉をノックする。
「入れ」
食堂には姿を見せなかったが、部屋にはいるようだ。
「失礼いたします」
オリヴィアが扉を開けると、ノアがベッドに座っているのが目に入った。どこか疲れている様子のノアに、オリヴィアは近づいて声をかける。
「大丈夫ですか?」
ノアからの返答はなく、代わりに気に食わないという顔で、オリヴィアを見つめ返している。
「どうかされました?」
またもノアからの返答はない。ただじっとオリヴィアを睨み返している。
「……だ、大丈夫?」
前世のような話し方に戻すと、ノアの表情は心なしか柔らかくなった。それに加え、雰囲気でとても嬉しいというのがオリヴィアに伝わってきた。
「ずっとそのままの話し方でいてくれ」
その言葉にオリヴィアは中庭での出来事を思い出す。
「そうだ! 王城内では、私たちはあくまでも王と使用人なのよ。お昼みたいな態度は困るわ!」
ノアは一度目を見開くと、今度は目を伏せて落ち込んでしまった。
ノアが悪いことをしているわけではないので、オリヴィアにも罪悪感がうまれる。胸が痛くなるのを感じながらも、オリヴィアは心を鬼にして言った。
「ここには主従関係があるのよ! このままじゃ、いつか私が他のドラゴンに殺されちゃう」
「そんなことさせる前に、俺がそいつを殺す」
ノアの視線が刃物のように鋭くなった。
本気で言っているんだ。ノアを見て、オリヴィアはそう思った。
「とにかく! みんなの前ではいつも通りに!」
「……」
「ダメ?」
「……そ、そんな目をするな。胸が痛くなる。分かったから……」
オリヴィアの願いを断れるはずもなく、ノアは渋々受け入れるのだった。
「はあ……その代わり……ふたりのときは、そのままでいてくれ」
オリヴィアの手を取り、すがりつく。
「ええ、分かったわ」
手を握られたことに戸惑いつつ、オリヴィアもノアの提案を受け入れた。
何だかよく手を握られている気がする、とオリヴィアは思う。そんなことを考えていると、手に柔らかな感触が。
「ノ、ノアッ!?」
ノアがオリヴィアの手に、頬を擦り寄せているのだ。初めてのノアの行動に、オリヴィアは驚きの声をあげた。
「何だ?」
手に頬を寄せたまま、ノアは顔をあげた。
座っているノアと、立っているオリヴィア。自然とノアの目線は上目遣いになる。
顔が良いだけあって、あの小さくて可愛かったノアだと分かっていても、オリヴィアは頬をほんのり赤らめてしまう。
そんなオリヴィアの表情を見たノアは、目を細めるのだった。
そして、またオリヴィアの手に頬を擦り寄せる。
「あ、あ、そ、それより! あの事件はどうなったの!」
焦ったオリヴィアは、何とか話の矛先を変えるのだった。




