第二十一話 「最近のリアム、何か変じゃない?」
中庭での騒動の後、オリヴィアは自室に戻った。道すがら寄った使用人部屋も、同じ話題でもちきりだった。どうやらチャーリーが騒ぎながら城内を移動したことで、使用人たちの耳にも入ったようだ。
ドラゴンは同じ種族を大切にする生き物だ。
戦うことはあっても、決して命を取ることはしない。王城に住むドラゴンたちに挑もうと、外のドラゴンがやって来ることもあるが、負傷はしても死んだドラゴンは過去一匹もいない。
この世にいる多種多様な種族の中でも、飛び抜けて強い種族であるドラゴン。そんなドラゴンが『殺された』となったのだから、ドラゴンも使用人たちも大騒ぎしているのだ。
オリヴィアは自室に戻り、ベッドの上に座っていた。頭にはひとつの疑問が浮かぶ。
そもそも……殺されたというのは……どういうことなのかしら?
「オリヴィアー?」
ドアを叩いたのはマーヤだった。
「外、みんな大騒ぎだよ! 何かあったんだーって」
オリヴィアはどこか他人事のように話すマーヤに聞き返す。
「そんなマーヤは気にならないの?」
オリヴィアに言われ、マーヤは視線を斜め上に漂わせ、うーんと考え込む。
「私たちが夜の配給係だから、食堂がピリピリしていなかが心配だわ!」
真面目な様子でそう返すマーヤに、オリヴィアは笑ってしまった。
「それより、気になることがあるのよね……」
そう言ったマーヤの雰囲気は、先ほどとは打って変わっていた。
「気になること?」
「最近のリアム、何か変じゃない?」
その言葉に、オリヴィアは先日のリアムを思い出す。あの時の恐ろしい顔が脳裏を過ると、背筋が冷たくなった。
「な、何でマーヤはそう思ったの?」
「何だか上の空なのよね、ずっと。あと、たまに思い詰めた顔してるし。それに……」
そこでマーヤは俯いて言葉を止めてしまう。
「それに?」
オリヴィアは優しくその続きを促した。
「……この前ね、夜中に水が飲みたくなって使用人部屋に行ったの。そしたら扉のところにリアムがいて。声をかけようと思ったんだけど、リアム、何か怖い顔してて。私声かけられなくて……リアムはそのまま扉開けて出て行っちゃった。寝間着姿でもなかったし、何してたんだろうって……」
確かに気になる話だ、とオリヴィアは思った。マーヤの話が本当だとすると、リアムはそんな時間に何故外に出て行ったのか。
オリヴィア自身も、最近のリアムの様子がおかしいと思っていたところに、マーヤの話を聞き、疑惑の念は強まる一方だった。
「オリヴィアは何か知らない?」
「おかしいと思うことはあったけど、私も何も知らないの」
オリヴィアの言葉に、マーヤは前のめりになって質問を返す。
「何で! 何でオリヴィアはおかしいと思ったの? 何かあったの?」
マーヤの勢いにオリヴィアはちょっと後ずさりしてしまう。
「お願い! リアムをこのまま放っておいてはいけない気がして……何でも良いから教えて欲しいの!」
マーヤの声からは、その切実さが伝わってきた。オリヴィアも、隠す必要はないだろうと思い、この前の出来事を話そうと決めた、そのとき。
「オリヴィア? 晩飯の準備の時間だよ。あ! ちょうど良かった。マーヤも探していたのよ。今日の当番はふたりよね?」
廊下から同僚が部屋を覗き込むように話しかけていた。
「え、あ、はーい!」
マーヤがちらっとオリヴィアを見る。
「後で、また話聞かせて」
ふたりは頷き合い、オリヴィアの部屋を後にしたのだった。




