第十九話 「綺麗にしましょう? ふたりで」
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「すまない。イザベルの両親が使用人として働いているのは見たが、最後までは知らないんだ」
ノアは申し訳無さそうに、頭を下げた。
「そっか……うん。話してくれてありがとう」
オリヴィアはそう言いつつも、どこかやるせない気持ちを抱えていた。もやもやするような、すっきりとしない感情が胸の内で渦巻く。
「怪我をする」
ノアがオリヴィアの手を取りながら言った。
オリヴィアは無意識のうちに手を強く握りしめていたようで、爪が刺さった手のひらに薄っすらと血が滲んでいた。
「本当にすまない」
もう一度、オリヴィアに謝罪をするノア。
オリヴィアは別に謝って欲しいわけではない。ただ、どこかやるせない想いが心の奥にわだかまっているのだ。
オリヴィアは思う。ノアは悪くない。むしろ私が巻き込んでしまったのだ。村のみんなも。
「泣くな」
オリヴィアの頬をつたう涙を、ノアが優しく拭う。
「ご、ごめ」
気丈に振る舞っていたオリヴィアだったが、過去の話を聞くうちに、色々な感情が込み上げてきていた。
「ノア、私のせいでごめんね……たくさん、たくさん痛かったよね? ごめんね……」
「謝るな。俺があのとき覚醒していれば守れたんだ。イザベルもベラも……」
ノアの目にも光るものが浮かんでいた。
ふたりの間に言葉はなくなった。ノアがオリヴィアを包み込むように抱きしめる。頬を濡らす涙を止めることはできなかった。
「ノア、ごめん。落ち着いたわ」
しばらくたって落ち着いたオリヴィアが言った。
人目も気にせずあれほど涙を流したのは初めてだった。オリヴィアはほんの少し恥ずかしくなり、ノアの腕から体を離す。
ノアは離れていく温もりを名残惜しく感じていた。
「あのさ……ベラのところへ連れて行ってくれる……?」
「ああ。もちろんだ」
ノアがオリヴィアに向かって手を差し出す。今までよりどこか柔らかい雰囲気で微笑むノアに、オリヴィアは思わず視線を逸らした。
「ええと、私自分で歩けるよ?」
「なんだ、顔が赤いぞ。心臓の音も早いようだ」
「へ?」
固まっているオリヴィアの隙をついて、ノアは彼女の手を取り、歩き出す。オリヴィアは逆らうこともできず、手を引かれるままにノアの後についていった。
道行く景色をキョロキョロと見回すオリヴィア。荒れ果てた地の中に、前世の記憶と重なるものがあり、懐かしさが込み上げてきていた。
「ここだ」
知っている、オリヴィアはそう思った。
前世の記憶とだいぶ印象が変わっているが、この場所をはっきりと覚えていた。
「荒れているわね」
「す、すまない。ここにひとりで来る勇気が出なかったんだ。ふたりがもうこの世にいないのは分かっていたのだが……」
ノアの曇った表情を優しい眼差しでオリヴィアが見つめる。
「綺麗にしましょう? ふたりで」
「ああ!」
枯れ木や落ち葉、土埃に覆われたその場所を片付けていく。絡み合った蔦をオリヴィアが引っ張りあげたときだった。
オリヴィアは苔の生えた木で作られた十字架を見つけた。隣にも同じくらいの大きさの何かが雑草に覆われている。
急いで雑草を払いのけると、隣にもうひとつの十字架が現れた。よく見ると、各々に名前が刻まれている。
「ベラ……」
片方に刻まれたのはベラの名前。オリヴィアは十字架に手を添えたまま、地面に座り込む。オリヴィアが流した涙が土を濡らす。
「ベラ……ベラ……」
一度収まった涙が、またとめどなく溢れ出してきた。ベラとの思い出が、今でも色鮮やかに脳裏に蘇ってくる。
もう過去を取り戻すことはできない。もちろんオリヴィアはそんなこと理解している。分かってはいるのだが、オリヴィアの心の中には数え切れない後悔が渦巻いていた。
十字架に添えた手に、ノアの温もりが重なる。
「ベラ……すまなかった。ずっと、ずっと来ることができなかった。遅くなった」
ふたりはベラが眠る十字架の前で、ベラを想い、涙を流し続けた。




