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第十八話 「我が王よ」

「王家の紋章だ!! 増援が来たぞ!!」


 入ってきた奴らに視線をやると、先ほど攻撃してきた人間より固そうな服を全身に身につけている集団だった。


「さっさと逃げろ! 俺たちにまで危害は加えないはずだ!」


 こちらを振り返ったイザベルの父親が、俺を庇いながら言った。


「ドラゴンめ! 覚悟せよ!」

「王子! ドラゴンの周りには村人が」

「ドラゴンを庇っている者も同罪だ。罪人としてこの場で処刑する」


 村人たちに絶望の色が広がっていった。

 人間のことはよく分からないが、村人たちが見捨てられたのだということは、俺にも何となく分かった。


 本当に愚かな人間たちだ。

 庇ってくれている村人たちを見ると、まだ人間に対して希望が持てる気がしていたが、それも徐々に薄れていく。代わりに身のうちに芽生えたのは人間に対する強い嫌悪感だった。


 敵意を剥き出しに、武器を向けてくる人間。


 殺すか――。


 そう思った。そうするしかないと思った。そのとき。


 突然、教会全体を揺らすほどの衝撃が襲ってきた。同時に天井が吹き飛び、頭上に青空が広がる。


「なんだ!?」

「屋根が吹っ飛んじまったぞ!!」


 人間たちは、先ほどまで天井があった頭上を見上げている。


「お、おい! あれ、ドラゴンじゃねえか!?」


 ドラゴン……?

 それは俺と同じ種族ということではないか?


 興味が湧いて空を見上げる。


 人間の言った通り、そこにはドラゴンが数匹飛んでいた。

 徐々に近づいてきたドラゴンたちは、眩い光に包まれたかと思うと、人間と同じ形になって前に降り立った。


「「我が王よ」」


 人間の姿になったドラゴンたちが、俺に向かって膝まずく。


「王よ。生きておられて何よりです」

「我が王よ! 他の同胞たちもこちらに向かっております!」

「私たちがお守りいたします!」


 どういうことなのだろうか。俺は『王』というものらしい。


「王子! ド、ドラゴンが!! ドラゴンが次々とこちらに向かってきております!」

「クソ! 仲間を呼びやがったな! 怯むことはない! 攻撃せよ!!」

「「おおおおお!!」」


 武器を構えた人間どもが向かってくる。


「愚かな」


 俺が何かする間もなく、周りにいたドラゴンたちが人間への攻撃を始めた。一瞬の出来事だった。瞬きをする間に、武器を持った人間たちは地面に伏していた。


「王よ。人間どもを皆殺しにいたしますので、少々お待ちくださいませ」


 その言葉に、村人たちが悲鳴をあげた。


「やめろ。敵意のある者だけ殺せ」

「ですが……! 人間は!」

「やめろ」

「「承知いたしました」」


 そう言ってドラゴンたちは散っていった。


 別に深い意味は無かった。

 ただ、俺を庇った村人たちまで殺されると考えたら、何だか気分が悪いと思った。本当にそれだけだった。


 もうこの場所に敵意のある者はいない。ここにいる意味もない。

 イザベルとベラのもとに行き、ふたりを抱え上げた。


「そ、その子たちをどこに?」


 イザベルの母親が、怯えながら聞いてきた。


「ついてこい」


 こんなところにふたりを放っておくわけにはいかない。こんな残酷な最後を迎えてしまったんだ。せめて安らかに眠ってほしい。

 思いついたのは、イザベルを背に乗せた日に行ったあの見晴らしの良い丘だった。

 村人たちは俺の意図を察したのか、丘に着くと地面を掘り、綺麗な花々を集めてきてくれた。


「安らかに」


 気がつくとドラゴンたちが戻ってきていた。何度も俺のことを「王」と呼ぶ。


 そして、俺は今のこの王城で暮らすことになった。

 そのときに、村人たちも連れてくることにした。その場に残しておくと、他のドラゴンに殺されてしまうかもしれないと思ったのだ。イザベルの大事な人たちをそんな目に合わせたくなかった。



 その後のことはあまり良く覚えていない。


 連れて来てはみたものの、何かをしてやったわけではない。村人たちも俺を庇ってくれたとはいえ、ドラゴンに対する恐怖心を強く抱いていた。


 ドラゴンたちはといえば、初めて会ったばかりにも関わらず、皆が皆、『王』に何か特別なものがあると過度な期待を抱いているようだった。


 恐怖のこもった視線も、期待を孕んだ視線も、すべてにうんざりしていた。だから全部放っておいた。全部。全部。


 ただただ喪失感に苛まれる毎日。

 ただただ時の流れに身を任せた。

 誰の目にも触れず、誰のことも見たくなかった。

 自然と自室に籠もる時間が長くなった。


 まあ、ケイレブとリリーのせいで、少し騒がしくはなったが。

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