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第十七話 ――殺すか。

 +++



 あの日、イザベルが息を引き取った後――


 目の前に広がる光景に、俺は今までにないほどの熱を感じていた。体の奥から全身に熱が広がっていくような感覚だった。


 ――熱い。


 ――熱い。


 自分が燃えているのかと錯覚するほどの熱さ。身のうちにほとばしるこの熱を解放したい。そう思った瞬間、何かが弾けたような気がした。


 目を開くと、イザベルを殺した人間がこっちを恐怖の表情で見ていた。間抜けにも尻もちをつき、足はガクガクと震えている。


 ああ。俺はこいつを殺さなければならない。

 この人間を。

 俺の手で。


 怒りが込み上げてきているはずなのに、どこか頭は冷静で、ただその人間を冷たく見下ろしている自分がそこに居た。


 ああ、静かだ。


 俺はこいつを殺す。


 とても容易いことだった。ただほんの少し力を向けただけで、あっけなくそれは終わった。


 ああ。こんなやつにイザベルは……。俺は守れたはずなのに。どうして……。


 どうしたら。

 これからどうしたら。

 イザベル――。


「わふっ」


 小さい、けれど確かに聞こえた。

 その声が現実へと引き戻してくれる。


「……ベラ!!」


 我に返りベラのもとへと駆け寄った。もともと体が弱っていた上に、追い打ちをかけるように攻撃を受け、ベラはもう自力では立てない状態だった。横たわったベラの呼吸は浅く、目もどこか虚ろで、先ほど声をあげたのも相当しんどかったはずだ。


「ベラ……」


 抱きかかえしばらくすると、微かに残っていたベラの呼吸が止まった。まだ温もりの残ったベラを、イザベルのもとへと運ぶ。


「イザベル! ベラ!」


 イザベルの両親が、ふたりのもとで声を上げて泣いている。俺は何故だかその輪に入ることができなかった。


 ヒュン


 何かが飛んできた音。


 周りを見ると、先ほど俺を攻撃してきた人間たちが武器を構えていた。皆が皆、敵意を剥き出しにこちらを睨んでいる。


 俺が何をした。

 イザベルが何をした。


「お前らよくもドラゴンを匿っていたな!」

「家族共々責任とって地獄に落ちろ!」


 向けられた敵意は、イザベルの両親にまで及んでいた。


「この子は……イザベルの大切な子です。どうか、もうやめてください」


 イザベルの両親が震えながら立ち上がり、俺を庇うように人間どもの前に立った。それに続くように、村人たちも連なって並んでいく。


「あんた、今のうちだ! 逃げな!」


 こちらを振り返り、逃げるようにと言う村人。


 そのとき、ふと思い出した。イザベルが聞かせてくれた村人たちの話を。たくさん聞かせてくれた。村人たちとの楽しい思い出。みんなが大好きだと言っていたイザベルの笑顔が蘇る。


 この者たちはイザベルの大事な人たちなんだ。


「お前らも道連れだ!!」


 武器を構えた人間たちが吠えるように何か叫んでいる。

 何て愚かな人間なのだろうか。

 でも、そうでない人間もきっといるのだ。


 吠えていた人間たちが、一斉に攻撃をしかけてくる。

 前に立っている村人たちに向けられた攻撃を、俺はすべて弾き飛ばした。これ以上、イザベルの大事なものが奪われないように。


「クソッ!」


 攻撃を防ぐのは難しいことではなかった。しかし、どうしたものか、なかなか終わらない。


 ――殺すか。


 そんな考えが過ったときだった。

 大きな音をたて、教会の扉が開いた。


「ドラゴンを討伐する!!」


 雪崩込むように、また武器を持った人間たちが教会の中へと押し寄せてきた。

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