第十三話 「そ、それに、私重いです!!」
それ以降、王は気が向いたときに空を飛ぶようになったのだ。
そして今日も王が大空を飛んでいる間、オリヴィアは中庭で待機しているのであった。
「王もすっかり元気になっちまってよ〜」
「良いことですわ」
ハンナと穏やかな雰囲気で談笑しているローマン。くるっと踵を返すと、オリヴィアへと近づいていく。
「このお嬢ちゃんは、いったい王に何をしたんだろうな?」
オリヴィアよりも頭ひとつ分以上も身長のあるローマンが、オリヴィアの顔を覗き込むようにして言った。顔が近いことに驚き、オリヴィアは思わず体を仰け反らせる。
「離れろ」
先ほどまで空を飛んでいたはずの王が、オリヴィアとローマンの間に現れた。あまりの早さにオリヴィアは驚きを隠せない。
「お前は俺のだろう」
「え、えぇ。承知しております」
また言葉足らずな物言いに一瞬戸惑ったオリヴィアだったが、意図をすぐに理解し返事をした。
お前は王専属の使用人だ、と言っているのだ。
王はそれ以上何も言わず、方向を変え、王城へと歩き出した。オリヴィアは慌てて、その後を追いかける。
「あの王が!! あはははは! 面白れえ〜!」
愉快そうに笑うローマンの声が中庭に響き渡った。
長い廊下を歩いていく王と、それについていくオリヴィア。ふたりの間に会話はなく、足音だけがリズムよく響いている。
ふと、窓の外の景色がオリヴィアの視界に入った。二匹のドラゴンが楽しそうに、じゃれ合いながら青空を飛んでいた。
「……良いなぁ」
「何がだ」
心の声が漏れてしまっていたオリヴィア。
聞こえるか聞こえないかという程度の独り言だったが、王はそれを聞き逃さなかった。先を進んでいた足を止め、振り返る。
「あ、いえ! 何でもございません!」
「……」
オリヴィアは焦って答えるが、もちろんそんな回答に王は納得しない。ただ無言でオリヴィアを真っ直ぐに見つめ続ける。
沈黙に耐えかねたオリヴィアは観念するしかなかった。視線を窓の外へと向けながら、大人しく王の質問に答える。
「空を……空を飛ぶのが楽しそうだなと思っていました」
オリヴィアは常々、大きな翼を広げ大空を飛んでいくドラゴンの姿を見る度、羨ましいと感じていた。自分もあんな風に自由に空を飛んでみたいと。
そして目にとまった二匹のドラゴン。誰かとそんな時間を共有することを想像し、思わず心の声が漏れてしまったのだ。
「一緒に飛ぶか?」
「へっ!?」
突然の提案に、オリヴィアは変な声が出てしまう。
「い、いえ! そのようなこと、できません!」
「何故だ」
何故かと聞かれても。オリヴィアは返答に困ってしまう。
前世ならまだしも、今のドラゴンと人間の関係では、そんなことは考えられないのだ。
それに……。
「陛下が私のような使用人を背中に乗せるなんて、ありえないことです!」
「俺は気にしない」
王の表情から、本当に気にしていないことが伝わってくる。むしろ、このやり取りを楽しんでいる風だとオリヴィアは思った。
何をどう説明すれば納得してもらえるのか、オリヴィアは必死に考える。
「そ、それに、私重いです!!」
半ばパニックになりながら何とか反論を捻り出したオリヴィアだったが、もはや自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。王の真っ直ぐな視線に耐えきれず、斜め上辺りを見ながら、何とか説得する理由を考える。
その瞬間。
オリヴィアは自分の体がふわっと浮き上がるのを感じた。地面に着いていたはずの足が宙に浮いている。
「そんなことないようだが」
オリヴィアは自分に何が起きているのか、数秒遅れて理解し、頭が真っ白になった。
王がオリヴィアを抱っこするように持ち上げたのだ。
あまりに軽々持ち上げられたことで、オリヴィア本人も自分が浮いたと錯覚するほどだった。
今までにないほどふたりの顔が接近する。オリヴィアは、いつも見上げていたその顔を見下ろし、王は上目遣いとも取れる視線を送っている。
余裕そうで、どこか楽しそうで、そしてちょっと意地悪な顔。
「どうだ?」
顔が目の前にあり、もう視線を逸らせない。間近で視線が交わり、オリヴィアは呼吸をするのも忘れていた。
「オリヴィア!!」




