第十二話 「どうして泣いてるんだ」
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すっかり王の傍にいることがオリヴィアの日常になっていた。
そして、今、オリヴィアは中庭で空を見上げている。
「今日も元気に飛んでんじゃねーか」
土のドラゴン・ローマンが、いつの間にかオリヴィアの近くに立っていた。
「お元気になって良かったわ」
反対側を見ると水のドラゴン・ハンナが。
オリヴィアは、ふたりのドラゴンの登場に驚きつつも、慌てて一礼した。
ふたりの見上げた視線の先に飛んでいるのはドラゴン、もとい王であった。人型からドラゴン本来の形へと姿を変え、大空を舞っている。
あれは数日前のことだった。
昼食の最中、オリヴィアはいつも通り王の後ろに控え、いつも通り炎のドラゴン・リリーと空のドラゴン・ケイレブの鋭い視線を感じていた。
「あとで中庭に行く」
「かしこまりました」
ちらっと振り返り、それだけ言うと王は食事に戻る。
王の傍で過ごす時間が長くなり、オリヴィアは少しずつ王の言動を理解できるようになってきていた。
基本的にすべてにおいて王は言葉足らずなのだが、先ほどの言葉も、後で中庭に来いという意味だと、オリヴィアは理解していた。
「王が中庭に行かれるなんて珍しい。何をされるのですか」
尋ねたのはケイレブだった。リリーも興味津々で話しを聞いている。
「空を飛ぶ」
ガシャン
いつも行儀作法を重んじているハンナが、珍しくフォークを手から滑らせた音だった。ハンナだけではない。五人のドラゴンが揃って食べる手を止め、王の方を凝視している。
「な、なんと!!」
「王が……王が……」
「出会って二百年で初めてじゃねーか?」
「私も初めてお目にしますわ」
「僕、見学しよっと!」
オリヴィアはもちろん王の飛んでいる姿を見たことがなかったが、まさか何百年も一緒にいるドラゴンたちも同じとは、とオリヴィアは驚いていた。
リリーとケイレブは、普段であれば喧しいほどに反応しそうなものだが、衝撃が強すぎたのか、ぽかんと口を開いた状態で固まっている。
「最近はよく寝れて調子が良いからな」
王はオリヴィアの方を向き、ほんの少し口角を上げながらそう言った。
ドラゴンたちが昼食を終えると、オリヴィアも使用人部屋で昼食を取ったが、食事中も先ほどの王の顔がちらつき、昼食はあまり味がしなかった。
昼食を食べ終えたオリヴィアは中庭へと向かう。すでに五人のドラゴンたちは揃っており、王が来るのを待っているところだった。
オリヴィアが来たことに気がついたリリーは、鋭い目つきでオリヴィアを睨む。その視線に気づいたオリヴィアは急いで挨拶し、頭を下げるのだった。
「いつまで頭を下げている」
下げている頭に重みを感じたオリヴィア。目線を上げると、その重みの正体は王の手のひらだった。
「飛ぶか」
王がそう言った瞬間、彼の体が眩いほどの光を放つ。
強い風が王を取り囲むように吹きぬけ、中庭の草花が舞い上がる。
まるで異世界にでも迷い込んだと錯覚するような光景だ。
ドラゴンたちも王を食い入るように見つめている。
光が徐々に収まってきたと思った瞬間、今度は爆風がオリヴィアたちを襲った。オリヴィアは思わず両手で顔を覆いながら、強く目を瞑る。
風が落ち着くと、オリヴィアは恐る恐る目を開いた。
「な、なんてお美しい!!」
「やっと……やっと見られたわ!」
ケイレブとリリーが空を見上げ、興奮気味に言った。
オリヴィアもつられて上を見上げると、そこには大きな翼を広げ、空を飛んでいる王の姿があった。
太陽の光を受けた白銀の鱗は、その角度によって色を変える。
七色に輝いているようで、とても幻想的だとオリヴィアは思った。
どれくらいたっただろうか。王は満足した様子で、中庭へと降りてきた。地面に着く瞬間には人型へと戻っており、そのままオリヴィアのもとへ歩いていった。
「どうして泣いてるんだ」
そう言って、オリヴィアの頬へと手を伸ばす。
オリヴィアは王に言われ、自分が涙を流していることに初めて気がついたのだった。
「あ、あの、とても綺麗で……って、いえ、あの、何でもございません」
「ふっ。そうか」
王は王城の方へと歩き出した。
「「王……!!」」
大号泣のケイレブとリリーが、その後を追っていった。




