第十一話 「……逃げるか?」
「うーん」
眩しい光で、オリヴィアは目を覚ました。いつの間にか、寝てしまっていたことに気がつく。
「起きたか」
「えぇ……も、申し訳ございません!」
声のした方を見ると、既に上半身を起こし、背もたれに寄りかかっている王の姿が目に入った。
オリヴィアは急いで立ち上がり、王に非礼を詫びようと頭を下げる。
そのとき、昨晩から繋いだままだったふたりの手がふいに離れた。王はまだ温もりの残る手を一瞬見てから、頭を下げているオリヴィアへ視線をやる。
「まだ早い。一度部屋に戻り、昼前にまたここに来い」
「かしこまりました」
もう一度頭を下げると、オリヴィアは部屋の扉を閉じ、自室へ向かって階段を降りていくのだった。
「オリヴィア?」
自室への帰り道、オリヴィアが遭遇したのはリアムだった。
「リアム!」
「今日は早いな。朝飯当番か?」
「いいえ、これから部屋に戻るところなの」
その言葉に、リアムが訝しげな表情をしたので、オリヴィアは昨夜、王に呼び出されたことを説明した。
「王の!? てっきり朝だけかと思ってた……それで今まで王の部屋にいたっていうのか」
「そういうことになるわね」
「お前それって……!!」
リアムはオリヴィアが今までに見たことのないほど憤っていた。強く握りしめた拳がわなわなと怒りで震えている。
そこまで怒ることかとオリヴィアは思ったが、何か勘違いさせてしまっているのかも、と気がついた。
「落ち着いて! 何も変なことはなかったわ! ただお傍にいただけよ」
「それを信じろっていうのかよ」
「本当よ! 私を見て分からない?」
オリヴィアは手を広げ、自分の髪や服装が乱れていないことを示す。
リアムはオリヴィアをじっと見つめ、確かに何もなかったようだと、少し落ち着きを取り戻した。
「……逃げるか?」
先ほどまでと打って変わって、冷静に低い声で告げたリアム。その真剣な眼差しがオリヴィアを見つめる。
「何を言って……?」
「あれ、ふたりとも早いね? 今日朝ご飯の当番じゃないでしょ?」
そこへ現れたのはマーヤだった。
「今日の朝飯はマーヤかよ〜! 心配だな〜」
「なんだとー!」
マーヤと笑い合いながら冗談を言っているのは、もういつものリアムだった。またあとでな、と言い残し、リアムは足早にどこかへ行ってしまった。
先ほどのリアムの様子が頭から離れないオリヴィア。どういう意味だったのか疑問に思い、気になってしまう。
「私も一度部屋に戻るわね。朝ご飯は……覚悟しておく!」
「もー! オリヴィアまで!」
マーヤはぶつぶつ言いながら厨房へと向かっていった。その様子を微笑みながら見送り、オリヴィアも自室へと歩き出したのであった。




