第六話 「お願いだから、危ないことに首突っ込まないで」
「オリヴィア! 大丈夫?」
食堂からある程度離れ、ドラゴンたちに声が届かなくなったところでマーヤが声をかけた。
「痕にならないように、すぐに手当てしないと」
「私の部屋に救急箱があるわ! そこで手当してあげる」
ふたりの言葉に、オリヴィアはじんじんと痛む首をおさえながら僅かに頷いた。
共有スペースである使用人部屋を通り抜けた先には小部屋が並ぶ廊下が続いており、そこが各人の自室として割り当てられている。マーヤの自室に向かうため、三人はまず使用人部屋へと入らなければならなかった。
扉を開けると、中にいた同僚たちが支えられるようにして歩くオリヴィアに気づき、周囲に集まってくる。
「オリヴィア!?」
周囲が騒然とする中で、リアムの一際大きい声が響き渡った。
オリヴィアが視線を上げると、真っ青な顔をしたリアムが駆け寄ってきているのが視界に入る。軽装でいるところを見ると、今日は食料調達ではなく城内仕事が担当の日なのか、とオリヴィアはどこか冷静に考えていた。
「何があったんだ!? 大丈夫なのか!?」
オリヴィアの両腕を掴み、心配そうな表情で矢継ぎ早に質問をするリアム。掴まれた腕が痛み、オリヴィアは顔をしかめる。
「……はい、離して〜! まずはオリヴィアの手当てが先!」
リアムを制してくれたのはマーヤだった。
その声にリアムも少し冷静さを取り戻す。ようやく、オリヴィアが痛がっているのに気づき、すまないと言って手を離した。
周囲を取り囲んでいた同僚たちも、口々にかけていた質問や心配の声を止める。
マーヤとオリヴィアは広間を抜け、マーヤの部屋へと向かった。
部屋に入り、オリヴィアを椅子に座らせると、すぐに救急箱に手をかけるマーヤ。オリヴィアに背を向けるようにして、治療のために必要な薬や道具の準備を始めた。
マーヤの背に隠れて、何をしているのかよく見えないオリヴィアは、気になって手元を覗き込もうとする。
そして気づいてしまった。彼女の手が震えていることに。
「マーヤ……」
オリヴィアの声に振り返ったマーヤの目には涙が溜まっている。
「心配したんだからね」
「うん」
「お願いだから、危ないことに首突っ込まないで」
涙目になりながら自分を心配してくれる友人に、オリヴィアは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんね……」
「ううう……手当てしちゃうからね」
「うん、お願いします」
マーヤはぼろぼろと涙をこぼしながら、手当てを開始した。
オリヴィアの心の中には、謝罪の念とともに、温かい気持ちも広がっていた。
「はい、終わり」
マーヤに言われ、オリヴィアは壁にかけてある鏡の前へと移動した。鏡に映った自分の首に巻き付けられた白い包帯が否が応にも目をひく。
今日は散々な目にあった。年長者のおばあさんだって、この国の王に会ったことはないのに。まさか自分が出会うことになるなんて、とオリヴィアはやっと落ち着いてきた頭で先ほどの出来事を振り返っていた。
「オリヴィア? 痛む?」
オリヴィアが我に返り鏡を見ると、無意識のうちに自分の首元に手を添えていたことに気がついた。それを見たマーヤは、首の痛みが辛いのかと心配になったのだ。
「大丈夫よ」
「そう? 無理はしないでね。それじゃ、みんなのところに戻ろっか。きっと質問攻めにあうね」
その言葉に、オリヴィアは苦笑いを返した。
ふたりが使用人部屋に戻ると、マーヤの予想した通り、同僚たちからの質問の嵐がオリヴィアを待っていた。
みんな仕事もあるのに……と呆れながらも、同僚たちの優しさを嬉しく感じたのも事実だ。
同僚たちから事の経緯を問われたオリヴィアだったが、オリヴィア自身、何が起きたのか正直よくは理解できていなかった。
そのため分かっている範囲で、この国の王に会ったこと、それに気づかず無礼を働いてしまい、他のドラゴンたちの逆鱗に触れてしまったことを簡潔に説明した。
それ以上は自分にも分からないとみんなに伝え、仕事に戻ってもらったのだった。
オリヴィアの話に対する同僚たちの反応は様々だった。その中でもひとり深刻そうな表情を浮かべて考え込んでいるリアムに、オリヴィアは気が付いた。何だかその様子が気になり、オリヴィアは声をかけた。
「リアム?」
「あ、ああ。いや、何でもない。お前はもう休め。仕事は俺らでやっとくから」
そう優しい表情で言うと、頭にぽんと手を置き、リアムは仕事に戻っていった。




