第五話 この御方が……
声のした方へ顔を向けると、そこには炎のドラゴン・リリーが顔を真っ赤にして立っていた。
リリーの右手には炎が渦巻いており、それは振り返ったオリヴィアへと放たれる。
反射的にオリヴィアは頭を抱えながら身を屈め、頭上が一瞬熱くなったかと思うと、背後で大きな爆発音がした。
オリヴィアが爆発した方を見ると、壁の装飾品が跡形もなく砕け散っていた。
もし、しゃがむのが一瞬遅れていたら……。
そんなことを考え、血の気が引いていくオリヴィア。一息つく間もなく、次の瞬間オリヴィアは突然の痛みに悲鳴をあげた。
「キャッ!」
食堂の入口から素早く移動したリリーが、オリヴィアの両手を後ろで縛り上げていた。オリヴィアは地面に膝をつき、完全に身動きが取れない状態で押さえつけられる。
「おい、何の騒ぎだ」
「昼飯前から派手にやってんな〜」
「なになに! 何か楽しいこと!? 僕も混ぜて!」
「穏やかではないですね」
昼食のため、ドラゴンたちが食堂に集まってきたのだ。
リリーより少し遅れて、他の四人のドラゴンたちも食堂の扉の前に来ていた。
そこで響き渡った先ほどの爆発音。四人のドラゴンたちは食堂で何があったのかと興味津々で入ってきたのだった。
「……!!」
食堂の中に入ってきた四人のドラゴンは、一斉にその場に膝をつき頭を下げる。
オリヴィアは押さえつけられながらも、その光景に目を見開いた。
これは一体……、とオリヴィアは今の状況を頭の中で整理する。
ドラゴンの中で最強とされている四人が頭を垂れている。頭を下げている先に視線をやると、そこにはあの白銀のドラゴンが。
「この者が無礼を……私の方で処分いたします」
リリーが静かに、しかし怒りの色を滲ませながら言った。
処分という言葉に、オリヴィアは体を強張らせる。
「おいおい。そいつは何したんだよ」
土のドラゴン・ローマンがリリーに訊く。
「王に……王に……」
リリーは先ほどの光景を口に出すことさえ、嫌悪感を抱いていた。
「王の御髪に触れていたのよ!!」
リリーの言葉を聞いた瞬間、空のドラゴン・ケイレブから抑えきれない殺気が一気に溢れ出した。
オリヴィアはあまりの恐怖に全身を小刻みに震わせる。
「貴様、よくも王に気安く触れてくれたな」
瞬時にオリヴィアの傍まで移動したケイレブが、オリヴィアの首根っこを掴み、力任せに持ち上げる。
オリヴィアは首がしまり、うまく呼吸ができなない。
ここにきて、やっとオリヴィアは事の重大さを実感していた。
まさか、白銀のドラゴン様がこの城の王様だったなんて。
初めて出会ったときに、もしかしてという考えが過ったが、今までに聞いていた話とあまりに印象が違ったせいで、別人だと判断してしまった。
「オリヴィア!?」
「うるさい!! 燃やすわよ!」
折り悪く、食事の準備をするためにやってきたマーヤとオリヴィアの母が食堂に姿を見せた。ふたりは苦しそうにしているオリヴィアを見つけると、すぐに駆け寄り、ケイレブに頭を下げる。
「申し訳ございません! この子にはよく言って聞かせますから、どうか」
ふたりの声が届いていないのか、聞く気がないのか。オリヴィアを持ち上げている力が弱まることはない。
呼吸ができず、意識も薄れてきたオリヴィアが、もうダメかと諦めかけた頃だった……
「離せ」
食堂の中に声が響く。
「ですが……!!」
「二度は言わない」
ケイレブは不服そうな顔で、手を離した。
オリヴィアは持ち上げられていた位置から、急に落とされ、地面に体を打ちつけるように落下した。
「ゴホッ……!!」
やっと息を吸うことができたオリヴィアは、必死に呼吸を整える。母親とマーヤが寄り添うように、オリヴィアに近寄る。
オリヴィアは涙目になりながら、相変わらず椅子に座ったままの白銀のドラゴンを見上げた。
この御方が……ドラゴンの王様だったなんて……、とまだ信じられない想いだった。
周りはこの状況をどうしたものかと、王の様子を窺っている。
「もう終わりかよ〜。そしたら飯食おうぜ。王、あんたの席はあっち」
ローマンが静寂を破って、呑気な声をあげた。王はこれに素直に頷き、入口から最も遠い奥の席へと移動した。それを見た他のドラゴンたちも、あとに続くように自席へと移動する。
「あんた、今度あの御方に触れたら容赦しないから」
鋭い目つきでオリヴィアを睨みつけながら、リリーが言った。
オリヴィアは急いで頭を下げる。恨めしそうにそれを見ながら、リリーも自分の席へと着席した。
「おい! 早く飯出せよ」
「は、はい!」
マーヤがてきぱきと机に食事を並べていく。オリヴィアは母に支えられ、食堂の外へと連れ出された。その後、食事の支度を終えたマーヤと合流し、三人は食堂を後にしたのだった。




