第四話 「で、どうしてまだ王城にいらっしゃるのですか?」
「先ほどの方は誰だったのかしら」
掃除中もオリヴィアの頭の中を占めているのは、大浴場で出会った白銀のドラゴンであった。
ドラゴンというのは気まぐれな生き物だ。いつだったか、王城に住んでいる五人のドラゴンに、最強の名を賭け、突然挑んでくる者もいた。
白銀のドラゴンも、大方空を飛んでいたら偶然王城に入り込んでしまったとか、その程度のことだろうとオリヴィアは結論付けた。
そうして、余計なことは頭から消し、掃除に集中するのだった。
「お! オリヴィア」
「リアム、今帰ってきたところ?」
「ああ」
大浴場の掃除を終え、廊下を歩いていたオリヴィアは、ちょうど狩りから戻ってきたリアムと遭遇した。他愛のない会話をしながら並んで歩くふたり。リアムは自然な流れで、オリヴィアの持っていた掃除道具を代わりに持ってあげるのだった。
「外の様子はどう?」
「……」
雑談の中でさりげなく質問をしたオリヴィア。リアムは暗い顔をして俯くだけで、返事は返ってこなかった。
少しの沈黙の後、リアムが絞り出すような声で答える。
「最近は雨が降らないから……城に近いところは無事だが、村の方へ行くと草木が枯れ出してひどい有り様さ。魔物も食べるものが無いせいで数がどんどん減ってきている」
オリヴィアはその言葉を聞き、考え込む。
イザベルの時代は川から用水路を引き、雨が降らずとも村の中へ水が運ばれていた。溜まった雨水を流す水路もあった。
そういったものを作ることはできないのだろうか、とオリヴィアは頭を悩ませる。
「オリヴィアはどうだ? 何か変わったことはないか?」
「変わったこと……ちょっとおかしなドラゴン様がいたわ」
そう言って、オリヴィアは大浴場での出来事を思い浮かべる。王城にいるドラゴンしか知らないオリヴィアだが、人間に自分の髪を触れさせるドラゴンなんて初めてだった。
綺麗な白銀の髪だったわ……。白銀……。
『きゅ!』
オリヴィアの頭に浮かぶのは前世のあの可愛い子。そして、あの子を思い出す度に辿り着くのは……
私のせいで……。
という懺悔や後悔が入り混じった感情だった。
「オリヴィア?」
急に黙りこくったオリヴィアを心配し、リアムが覗き込むように首を傾げた。
「何でもないわ! お腹空いたから行きましょ!」
「っふ。食い意地はってんな」
柔らかい表情でふわっと笑い、オリヴィアの頭にぽんっと手を置くリアム。
「子ども扱いしないでください〜」
おどけた調子でそう返すオリヴィア。ふたりは笑いながら、昼食へと向かったのであった。
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「で、どうしてまだ王城にいらっしゃるのですか?」
オリヴィアの前には、昨日大浴場で出会った白銀のドラゴンが立っている。
「ん」
白銀のドラゴンはオリヴィアの質問には答えず、代わりにタオルを差し出した。よく見ると、また髪の毛が濡れている。昨日同様に、一切拭いていないのであろう。ぽたぽたと水滴が滴り落ちるほどに濡れている。
これってまた髪を拭けということなのかしら、とオリヴィアは戸惑いながらも、差し出されたタオルを受け取った。
「あの……ここで、ですか?」
オリヴィアの今日の担当はトイレ掃除。
そこに現れた白銀のドラゴン。
清潔とは言い難いこの場で、湯上がりと思われる白銀のドラゴンの髪を拭くのに、オリヴィアは躊躇していた。
「何か問題でもあるのか?」
「ここでは……場所を変えませんか?」
「構わないが」
ドラゴンに意見するなど本来であればありえないことだが、この白銀のドラゴンの空気感がオリヴィアにそれを許しているのだった。人間への軽蔑や蔑みを感じさせない態度に、オリヴィアは接しやすささえ覚え始めていた。
「では、こちらへお願いいたします」
オリヴィアは一礼してから、先を歩き白銀のドラゴンを誘導する。
白銀のドラゴンはただ大人しくその後ろをついていく。
ちらちらと後ろを振り返り、白銀のドラゴンの様子を窺うオリヴィア。何だか不思議な感じ、と思いながらも歩を進めた。
オリヴィアが白銀のドラゴンを案内した先はドラゴンたちの食堂だった。
あと少しで昼食の時間になる。昼食時には五人のドラゴンがここに集まるため、会わせるのが最善と判断したのだ。
いつまでも王城内に外部のドラゴンがいるのは良くないかもしれないという懸念もあってのことだった。
「こちらにお座りくださいませ」
オリヴィアの言う通り、素直に指定された席に腰掛ける白銀のドラゴン。
オリヴィアは後ろに回り込み、未だに水滴がぽたぽたと滴っている髪をタオルで包みこんだ。丁寧に髪の水気を取っていく。
「髪を結いてみろ。鬱陶しいと思っていたんだ」
突然の申し出に目をぱちくりとさせるオリヴィア。
あいにく、髪を結ぶものなど準備していない。少し考えた後に、オリヴィアは結んでいた自分の髪をほどき、白銀のドラゴンに使うことにした。
そっと、白銀色の髪に触れる。
「あんた!! 一体誰に触れていると思っているの!!」




