1-06 家族になりました ②
ヴェルセニア公爵家長女、アタリーヌ姉様。えっと、多分18歳。
お父様や幼なじみが大好きだったくせに盛大にツンデレをこじらせて、悪役にならなくてはいけないと、割と本気で豪快に悪の道に染まり、小悪党シグレスの勇者(笑)の仲間になったあげく、この世界で唯一、私の正体に気付き、最後には私に美味しくいただかれちゃった、私の異母姉。
あれほどツンデレな逸材を消滅させるにはしのびないと、魂を半分だけ残して復活するようなら、養殖出来るかと思っていたんですけど……。
「ユールシア……私の妹、…ですよね?」
「ええ、そうですわ、アタリーヌ姉様。お身体の調子はいかがですか?」(泣)
私の感覚だと大雑把だけど、半分まで減った姉様の魂は、あんまし回復していないように見える。
姉様も公爵家に戻ったばかりの頃は、なにもせずにぼんやりと過ごしていたらしく、まともに人と会話が出来るようになったのはここ一年ほどらしい。
つまりは、悪魔が食べるのはあくまで『魂の経験値』なので、増えた分はこの二年の記憶分でしかなく、記憶と経験値は違うみたいなのです。
しかも、凄く穏やかそうな人になってるしっ!
あのツンツンドロドロ全方位鉄条網トゲトゲのアタリーヌ姉様が、普通に美味しく無さそうな人になってますっ!
……まぁ、お父様やお母様の事を考えたら、以前のままだと困るのだけど。
とりあえず、ツンデレ娘を更生させてしまったことに、会ったこともないアタリーヌ姉様の事故死なされたご生母様も、草葉の陰で喜んでいると思いますわっ。
「申し訳ございませんでしたっ!!!!」
姉様と後でお茶をする約束をして、カロー子爵に挨拶に行ったら、いきなり全力土下座されたでござります。
天辺がかなり薄くなっているので、目玉みたいでちょっと怖い。
「……どうなされたのですか?」
「うちの愚息が、こともあろうに姫様の姉上であるアタリーヌ様に不埒なことをしでかしたようで……」
ああ、アレ、カロー子爵の息子さんだったのかっ! 一応、死なない程度に治療しておいたから大丈夫よね……?
話を聞いてみると、カロー子爵家は元々広い土地を持つ領主で、寄親であるヴェルセニア家が羽振りが良いので、この10年、カロー子爵家もかなり裕福になったらしい。
息子さんには魔法の素質が無かったそうで、学校が違う彼は、私とも姉様とも面識がないので噂しか知らず、伯爵家以上の所謂大貴族の子弟が在籍しないトゥール領の学校に通っていた彼は、少々傲慢になっていたそうです。
そこで噂に聞いた、家を飛び出した問題のある公爵家の放蕩娘が、記憶を失ってとても大人しい、ただの美人になったものだから、姉様を嫁にすれば、いづれカロー子爵家も大貴族に、って、はっちゃけたのが原因でした。
「……それでご子息は?」
「あやつには謹慎させておきました。息子にはいい薬でしょう。姫様には大変ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。是非とも……是非とも、我が家には寛大なご慈悲をっ!!!」
「………」
どうしてここまで私が恐れられているんですかっ!? 公爵令嬢だからとか関係なくなってますよねっ?
「そして是非とも、私めに姫様の“奇跡”をっ!!! ルポン子爵の勧めもあって、私も“例の会”に入会いたしましたっ!!!」
何てことでしょう……。
カロー子爵も私を“カミの使徒”と崇める、王都中心とした輝く頭皮を持つ者達の、闇の秘密結社、【輝きに闇をもたらす聖女の会】の会員さんでしたっ!
まだあったのか、あのおっちゃんしか居ない集団っ!
くっ、今度はちゃんと、こんな暗黒結社ではなくて、私は普通の悩める女の子が立ち寄れる穏やかな会が欲しいのです。
「とりあえず、寄付金をお納め下さい」
「……分かりましたわ」
とにかく、カロー子爵の頭皮を治療して輝きに闇をもたらすと、子爵はあらためて、ヴェルセニア公爵家と私個人に忠誠を誓ってくれました。
いいのかそれで。この世界の貴族は私の常識とはどうも違う気がしている。
次の日はアタリーヌ姉様とも約束通りお茶をしました。
「ユールシアは記憶を失う前のわたくしを知っていますのよね? 侍女達はあまり詳しく教えてくれないのですけど、随分と問題を起こしたとか……。あなたにも迷惑を掛けたのではありませんか?」
「いいえ、アタリーヌ姉様は、昔っから大変美味し…可愛らしい、貴族らしいステキな女性でしたわっ」
「そうなの……?」
そうなのです。あの頃の姉様以上に素晴らしい食ざ…げふんげふん。
「ところで、ユールシア。私は覚えていないのですけど、私にもう一人、一つ下の妹が居ると聞いたのですが……あなたは会ったことがありまして?」
「はて……そのような人、居ましたっけ?」
アタリーヌ姉様との思い出の中で、姉様の後ろに背後霊みたいなのが居たような気がうっすらとしますけど、記憶にございません。
「「う~ん……」」
と姉様と二人で唸りながら考えても、結局、答えは出ませんでした。不思議っ。
もちろん、お母様や弟のシリルとも、家族でお茶をしたり遊んだりする。
意外なことにアタリーヌ姉様はシリルと仲良しで、あやし方がとても上手でした。
「シリルく~ん、こっちにもお姉様がいますよ~」
「だぁ」
何故かシリルは私のキラキラ金髪を引っ張るのだけど、痛いけど痛くないっ!
そして何故か、家族のお茶会に普通にお呼ばれしているリンネをシリルは随分とお気に入りで、お膝の上でキャッキャと騒ぐシリルに、リンネは困った顔を私に向けた。
「……ユールシア」
「はいはい」
さすがに数千年を生きたリンネでも赤ちゃんのあやし方は知らないか。ふふ。
魔界の暴れん坊。悪魔公でさえも彼との直接敵対を避けるという凶暴魔獣である彼なのに、こちらに来てから意外と紳士的で理知的な面を見せている。
悪魔というのは若い頃は粗野でも、時が立つと自然と理知的になるらしい。
でもまぁ、冷酷で残忍な部分は変わらないんだけど、年を取るにつれ、傍若無人な人が増えていく人間とは逆ですな。
名を持ったり、顕現する身体を持つのも重要かと思うんだけど、リンネに聞いたら呆れた顔でこう言われた。
「お前が大切にしている人間だからな」
「…………」
……うん、まぁ、それはさておき、そろそろ王都に向けて出発ですっ。
ところが、いつも通り従者やリンネ達と出ようとしたら、私を心配したお母様から唐突な提案をされた。
「ユル。あなたの護衛騎士をちゃんと連れて行きなさい」
「……え」
チラリと見えた柱の陰に、私の護衛騎士であるブリちゃんとサラちゃんが、涙目で私の専属騎士であるニアの両腕をガッチリ抱きかかえていました。
私としては移動速度も下がるし、どちらかというとブリちゃん達には家族を護衛して貰いたいのが、偽りない本音なんだけど、……言えるような雰囲気じゃない。
「ユールシア。俺が残るか?」
「リンネっ?」
リンネから唐突な提案をされた私のほうが狼狽える。
彼の性格からして、こんな片田舎に居るよりは、旅に出て暴れるほうを選ぶかと思ったのに。
「……人間程度では相手にならん」
「さようですか」
要するにリンネからすると、今更普通の人間の相手なんて、飛び回る虫を相手にするようなもので、面倒なだけらしい。
何か、私のほうがリンネよりも好戦的な気がするのは、きっと気のせい。
それといきなり人間社会に混ざるには、幼い頃から仕えている従者達や元人間のギアス達と違って、多少常識面が足りていないと認識しているので、この田舎を練習に使うそうな。
「ユールシアも、こちらが安全でないと力が振るえないだろ?」
「うん……ありがと、リンネ」
そんな訳で変則的なメンバーで出発することになりました。
どこが変則的なのかというと、まずは人化時間に問題のある恩坐くんとギアスを連れていく。まだ常識が不安なリンネの為にノアと、転移出来る連絡要員としてファニーを残していく。
出発するメンバーは、私、ティナ、ニア、恩坐くん、ギアス、それと護衛騎士団八名となりました。
どうしようっ、メンバーが不安ですっ!
そして私達は翌早朝、お父様の居る王都へ向けて出発する。
まず目指すは、ヴェルセニア公爵家のお屋敷があるトゥール領です。
次回、道中で出会う意外な人物。





