1-07 旅路となりました ①
「ユル……気をつけていくのですよ。それと、フォルト様のことをお願い……」
「はい、任せてくださいお母様。シリルも健やかでいるのですよ」
「だぁ」
相変わらずシリルは私の髪を引っ張るけど、痛いけど痛くないっ。
ああ、それと、従者達の宣言通り、私のドレス形状がリニューアルされました。
黒銀ドレスはより普段使いにしやすく、白金ドレスはよりパーティードレスに特化した感じ。
デザイン的には子供っぽかったデザインを大人っぽいものに変えて、黒銀ドレスは露出が増えた。……白金ドレスはこれ以上露出を増やされても困るんだけど。
今着ている黒銀ドレスは、レースになってうっすらと肌が見えている部分が多くなった。それだと少々はしたないので、ショールに変形させた白金ドレスとセットで使う。 要するに、黒銀も白金も、組み合わせて使うようになったのです。
「フォルト様が見たら、お小言を貰うかも知れないわね」
「……え~…」
そんな感じで私達はトゥール領に向けて出発しました。
お母様達と一緒に、ふさふさになった頭の満面の笑みで私を拝んでいるカロー子爵の領地からトゥール領まで馬車で五日と言ったところでしょうか。
……私が本気で走れば1時間も掛からないというのに。
まぁ、それでもやることはあります。
ヴィオの赤ちゃんの名前を考えなくてはいけません。男の子かなぁ、女の子かなぁ。シリルの友達になってくれるといいんだけど。
それから個人面談もあります。私の護衛騎士8人なんだけど、みんなは軍馬に乗ってきていますが、一人ずつ馬車に呼び出して面談です。
けしてトゥール領に着くまでの暇つぶしではありません。
「それでブリちゃん、あなたはどんな旦那様がいいの?」
馬車内で対面に腰掛け尋問……いえ、面談です。あくまでも。
敵にも味方にも容赦のないと有名なティナとニアに挟まれ、聖女護衛騎士団隊長ブリジットは緊張気味に自分の要望を口に出す。
「可愛い男の子系がいいです……」
「……考慮しましょう」
開幕からきつい一撃を貰った。ショタか? ショタなのか? 某ヅカ男役系のブリちゃんなので、百歩譲ってそれも有りかな……と思うことにする。
「次はサラちゃんね。どんなお婿さんが欲しいのかしら?」
次にやってきたサラちゃんは、左右の従者二人に冷たい視線を向けられ、どこか上気した赤い顔で、恥ずかしそうに問いに答える。
「苛めてくれる人なら……」
「…………」
今日は良い天気ですね。絶好の旅日和と言えます。……おかしいですね。途中の記憶がすっぽり抜けているような気がいたします。
まぁ、現実逃避はさておき、護衛騎士八人全員と面談したところ、下級貴族である騎士家出身とは言え、独身貴族であるギリギリの年齢に達して、恋人もいないという理由を垣間見た気がしました。
お金持ちの商人や、男爵以上の中級貴族に嫁ぎたい、等と言っているのはまだマシなほうで、中には老後の面倒を見たいから、見た目六十代のギアスを紹介してくれと言ってきた猛者も居た。
面白かったのは、これだけ多様な性癖が揃っていたのに、誰一人として恩坐くんを紹介してくれとは言われなかったこと。
言われても困るんだけど、話題にも出ないのは何でかとチラリと聞いてみると、『良い人そうなんですけどね……』と口を揃えたように言っていた。
まぁ、あれだ。比較的女性に人気があるのに『良い人』で止まっちゃうアレだ。
……やはり、お調子者臭が滲み出ているのでしょうか。
そんな感じで旅は順調に進んでおります。途中で虎やクマ程度なら出てくるけど、そのくらいならブリちゃん達でも十分に対処出来る。
困るのはこの世界の最強野生生物、カバくらいでしょう。魔物が存在する世界なのに魔物より強いってどういうこと? 実際カバの群れに襲われたら、上級悪魔である恩坐くんでも危ないかも知れない。
でもまぁ、最強の生物はモチプルンなんですけど、お友達のフランソワは元気なのかしら……?
それはともかく四日目にはトゥール領近くまで到着しました。
ここら辺からは反乱軍もいるはずなので慎重に行きます。出てきたからどうなんだって気もしますけど、私が知っているのは片田舎に引き籠もっていた人達の古い情報だけなので、油断は禁物です。
『ガウガウ』
『……(ひょい)』
ニアとティナには、ちょっと現地がどうなっているのか偵察に出て貰っている。
そんな訳で本日の護衛は私の膝の上で、訳の分からない会話をしている動くヌイグルミが二体であります。
……別にいいんだけどね。二人は私の言う事はわかってくれているし。
本当は恩坐くんとニアを偵察に出して、侍女のティナと執事のギアスを残すつもりだったんだけど、二人の人化時間が限界でした。
二人の姿が見えないと不審に思われるので、二人用に割り振った馬車に引き籠もっている設定にしているけど、空の馬車を警護しているブリちゃん達は、中から長時間出てこない男性二人に、何故か頬を赤らめてウットリとした瞳を向けていた。
……腐ってやがる。
コンコン。
「姫様、宜しいですかっ」
馬車の戸が叩かれ、外からサラちゃんらしき声が聞こえた。
「ええ、いいわよ。何かありまして?」
私が返事をすると、戸が開いて少し緊張した面持ちのサラちゃんが、身体半分だけ馬車に乗り込んできた。
ギアスと恩坐くんは、向こうで見つけてきた自立型ヌイグルミゴーレムだと説明しているので、見られても問題ない。
「まだ新しい轍の跡がありました。数からすると二個中隊程度で、これがトゥール領の兵士ならいいのですが……」
「反乱軍の可能性が高い?」
「おそらくは」
あの二人を偵察に出したのは裏目に出ちゃった。呼び戻したいところだけど、魂の繋がりはあっても、細かい連絡まで出来るのは、メール機能のあるギアスだけだったりする。
『ガウ?』
そのギアスは私の膝の上で可愛らしく首を傾げて、忙しいのでどうしようもない。
「姫様っ! 遠くで光と土煙が見えましたっ。おそらく戦闘中だと思われますっ」
その時、護衛騎士の一人がやってきて突然そんな報告をしてきた。
「姫様っ、一旦下がりましょう。ニアちゃんがいないので戦力的に不安ですっ」
「そうね……」
護衛騎士の立場としてはそれが正解で、私だけだったらとりあえずここから一撃かまして様子を見るんだけど、
「二人とも、行って」
「「えっ!?」」
サラちゃんと報告に来た子が一瞬驚いた声を出したけど、“二人”とは君達のことではありませんよ。
『ガウっ』
『(こくん)』
すぐに理解したギアスと恩坐くんが可愛らしくお返事をして立ち上がると、開いていた馬車の入り口から飛び出していった。
「ひ、姫様っ? いいんですか? あれ、貴重なゴーレムなんじゃ……」
「大丈夫よ、戦闘用だし」
「あの見た目で戦闘用なんですかっ!?」
戦闘用どころか、アレが上級悪魔だなんて思いもしないよね……。
私は少々気になることがあったんです。
戦闘があるのならどちらかは味方なので助けたいけど、見知らぬ兵士よりサラちゃん達の安全のほうが私は大切なので、下がっても良かった。
でも報告では、戦闘に光が見えると言っていた。
剣や鎧が光った程度ではそんなことは言わないでしょうから、多分、魔術の光だとすると、光属性を戦闘で使う人なんてこの国では限られている。
「サラちゃん、すぐにあの子達の後を追って。戦闘に介入します」
「は、はいっ!」
押し問答も嫌なので、ほんの少しだけ威圧して命じると、サラちゃんは跳びはねるように背筋を伸ばして飛び出していった。……何故、頬を染めた?
「『聖なる護りの光在れ……輝聖盾』っ」
馬車の中から防御の最上級加護をサラちゃん達だけでなく馬にまで掛けると、外から驚きの声が聞こえ、馬車が走り出して、立ち上がっていた私は頭から転けた。
数分も馬車を走らせると、中からでも外の戦闘音が聞こえてきた。
馬車から身を乗り出してみると、反乱軍らしき兵士が向かってくる私達に何かを叫びながら槍を突き出そうとしている。
「問題ない。『突っ込め』」
一般兵士の槍程度では私の【輝聖盾】は貫けない。【神霊語】で強制的に馬に命じると、馬車の勢いのまま、轢き逃げアタックで兵士達を弾き飛ばした。
……味方は居なかったよね?
戦闘は私達の介入もあって、すでに決着が付きそうになっていた。
でも兵士対兵士の戦いでなく、反乱軍の相手をしていたのはたった一人で、その外套を被った戦士っぽい人は、乱入してきたギアスや恩坐くんに警戒したように剣を向けている。……普通に怪しいよね。
「そこの人、剣を引きなさいっ!」
私が馬車から飛び降りて声を掛けると、ギアス達が私のほうへ戻り、私を見たその戦士っぽい人は、驚いたように剣を下ろして声を上げた。
「ルシア……っ!?」
あれぇ……知ってる人?
盛大に遅れました。今週はこれだけですが、余裕があったら週中にでも1話あげられたいいなぁと思います。
次回、その人物は……バレバレですか?





