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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三部 第一章・燃える聖王国【帰還編】

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1-08 旅路となりました ②

軽く済ませようとしましたら、何故か長くなったので三人称のみです。




「こちらにも手掛かりはありませんでしたわっ。次はどちらに向かいましょうっ?」

「う、うん……」


 柔らかそうな金の髪がふわりと揺れる。

 まだ十代前半と思しき大人しそうな外見の少女だったが、興奮しやすい質なのかとてもテンション高めな様子で振り返ると、声を掛けられた同年代の生真面目そうな少年は若干引き気味に頷いた。

 ここは古代の異次元の扉があると伝承のあった遺跡群。

 一番近くの村からでも徒歩で五日はかかるような辺鄙な場所で、魔素が多い土地なのか、人里にこそ降りてこないが知能の高い狡猾な魔物が生息する危険な場所。

 とてもではないが、十代前半から半ば程度の少年少女が訪れるような場所でも、辿り着けるような場所でもない。

 しかも二人は、貴族の学生が着るような服を着て、唯一腰に長剣を差す少年でさえも手甲や膝に鎧を着けた程度の軽装備だ。だがその二人の服がピクニック程度をした汚れしか付いていないのは、ある意味異様とも言えた。


「何か来ますっ、下がって!」

「わたくしも戦えますわっ。『万物を更生するマにゃよ、炎となりて敵を討て』…」

「ちょ、」

「炎の矢っ!」

 少年が止める間もなく放たれた【火矢】の魔術は、サツマイモそっくりの形で出現して、岩の塊のような獣の表面でポンッと弾けてあっさりと消えた。

「「………」」

『…………』

 微妙な空気が流れて沈黙が辺りを支配する。その岩のような魔物からも微妙な空気を感じていると、火矢を放った少女がハッとしたように声を上げた。

「ノエル様、今ですわっ!」

「なにやってんですか、シェルリンドさんっ!」

『……お前ら、もう帰れ……』

 岩の魔物は意外と理知的だった。


 聖王国の勇者、ノエル・ラ・バルナバス伯爵。十五歳。

 オルアレン伯爵家令嬢、シェルリンド・ラ・オルアレン。十四歳。

 二人は、世界を救い消えてしまった【伝説の聖女】の手掛かりを求めて、二年前より各地の伝承が残る場所を廻っていた。

 元々は友人であり、勇者パーティの一員であった少女を捜す為、ノエルが一人で探索していたのだが、それを知った少女の親友であるシェルリンドが強引に彼の旅に同行している形だ。


「ノエル様、わたくしのことはシェリーで構いませんわ。お友達(・・・)は皆様、そう呼びますもの」

「…………」


 シェルリンド――シェリーも、あのようにいつも突飛な行動をしている訳ではない。

 どちらかと言えば、普段の学院で見る彼女は、上級貴族らしく落ち着きがあり、見た目通りおっとりしているのだが、親友である少女のこととなると突然残念な状態になってしまう。

 それでも少女のことを思えば胸が苦しくなり焦燥感で身を焦がすようなノエルからすると、シェリーの気持ちが解りすぎるほど解るので、どんなに迷惑でも強く拒絶することが出来なかった。

 だが、せめて旅の仲間として、ある程度頼りになるのなら良かったのだが、武器にしても魔術にしても、シェリーは攻撃に関する適性が皆無なのが致命的で、必然的にノエルの苦労ばかりが増えることになる。

 それなのにシェリーと旅をしているうちに、それがあまり苦痛と感じなくなってきた自分を、ノエルは不思議に感じていた。


「……それじゃ今日は戻りますよ、シェルリンドさん」

「はい、ノエル様。シェリーですよ」


 一人なら何週間でも、山で獣の血肉を啜ってでも、強行軍での探索も辞さないが、蝶よ花よと育てられた生粋の伯爵令嬢を、日を跨いで連れ回すことなど出来ない。

 そのようなことを友人である王子様にそれとなく教えられたノエルは、努力を重ねて勇者系の魔術である【光の転移】を会得した。

 【光の転移】とは空間転移のような便利な魔術ではなく、目で見える場所へと高速で移動するだけの、過去の勇者が『格好良く登場する』為だけに作られた魔術であり、使用回数にも制限はあったが、お嬢様を送り届けるタクシー替わりには最適で、ノエルはシェリーを夕飯前に家に帰すことを余儀なくされていた。

 でもそのおかげで、ノエルは人としても貴族としても道を踏み外すことなく、ギリギリを保てていたのだから皮肉なところだ。


 それでも年頃の令嬢を側仕えも無しに伯爵になったばかりの男が連れ出すのだから、オルアレン伯爵家から文句も出そうな気もするが、【聖王国の勇者】の名声故か、不気味なほど伯爵家から何も言われていない。

 逆に同じ年頃の令嬢がいる上級貴族家から、うちの娘を連れて行けと言われたことはあったが、意味が分からないので放置した。

 それに関しては養父であり元傭兵団長のバルナバス子爵の頭が薄くなっただけで済んでいる。


 普段は同じ年頃の子供達と同じように学校に通い、週末は二人で日帰りの探索に出掛ける。

 そんな二人の生活がある日を境に変わった。

 聖王国南方軍の反乱である。

 迷惑な……としか感想のなかった元流民の、現在貴族で勇者であるノエルにも国から要請が来た。

 ノエルの関心は消えてしまった少女のことだけで、貴族間の諍いには何の関心もなかったのだが、養父のことや友人である王子のことを考えると、貴族として【勇者】が国に敵対しないことを示さなければいけない。

 そしてなにより、【聖王国の姫】であり、【伝説の聖女】である公爵令嬢との“釣り合い”を考えると、褒美として貰った伯爵位であっても、ノエルはそれを失う訳にはいかなかった。


 友人である王子は、【聖戦士】として聖騎士と騎士団を率いて戦場に出たが、ノエルは【聖王国の勇者】として軍を率いるのではなく、遊撃を選んだ。

 これは少人数で敵陣に乗り込む【勇者】としての適性もあるのだが、まだ貴族としての意識が薄いノエルは、敵の大将を直接叩いて、手っ取り早く戦いを終わらせる道を選んだのだ。

 だが……

「ノエル様、今日はどこに行かれるのですかっ、逃がしませんよっ」

「探索ではありませんっ!」

 どこに行こうとしてもシェリーが付いてくる。

 本当にどうやって見つけるのか、何か特殊な嗅覚でも持っているかのようにシェリーはノエルを探し出し、生真面目にも毎回オルアレン伯爵家に送り届けて、出掛けようとすると転移する瞬間、服を掴まれて一緒に移動していた。


「わたくしの野生の勘が、今日こそは間違いないと告げているのですっ!」

「……貴族の令嬢に野生の勘はないでしょう」


 山のようにツッコミどころも文句もあったが、シェリーの屈託のない笑顔を向けられると、何故かノエルは何も言えなくなった。


「……とりあえずシェルリンドさんはここに居て下さい。周囲の安全を確認してきますから」

「はい、ノエル様、分かりましたわ。シェリーでいいですわよ」

「…………」


 今日は何度か【光の転移】を使った為、使用制限が限界に達していた。

 三時間もあればもう一度転移は出来そうだが、見える場所から最大値――オルアレン伯爵家の屋敷の尖塔が、点のように見える場所まで一気に転移した為、現在どこに居るかも定かではない。

 でもノエルは見える森の様子から、

「……トゥール領まで跳んじゃったのか」

 今までの最高記録で、よく二人で跳んで事故が起きなかったものだと、ノエルの顔色が青くなった。

 木々に衝突してノエルは平気でも、シェリーは大怪我をしていただろう。

 とりあえず現在位置に確信が持てたらシェリーを迎えに行こうと考え、歩き出した瞬間……

「…っ!?」

 ノエルの【勇者】としての超感覚が、何かとてつもない“邪悪”が迫っているような悪寒を感じた。

 【聖王国の勇者】は、この聖王国に邪悪(・・)が現れた時、光の精霊に選ばれて現れる。

 ノエルは数日前から心臓を締め付けるような息苦しさを感じていた。

 でもそれは、幼い頃に金色の少女と出会い、少女への想いを自覚した時からずっと感じていたものだったので、ノエルは懐かしさを感じていただけだった。

 だが今感じた悪寒はただ事とは思えない。


「……シェリーっ!」


 何か嫌な予感がしてノエルはシェリーが隠れていた方角へ走り出し、その方角へ向かおうとする反乱軍の一団と遭遇する。

「何者だっ! 怪しい奴めっ」

「どっちがっ!」

 感じた悪寒の主がこの程度ではないと分かっているが、なし崩し的に戦闘が始まり、ノエルはシェリーのところへは行かせまいと、その力を解放する。

「…【μυα】…ッ!」


「ぐあぁあ!?」

 光と衝撃が反乱軍の兵士達をなぎ倒し、その光を見た兵士達が動揺する。

「ゆ、勇者様っ!?」

「怯むなっ」

 人間相手は無意識に手加減していたのかまだ意識があるものは多かったが、単独で魔王軍を蹂躙する力に、兵士達は知っている者もいたのか、及び腰になっていた。

「降伏しろっ! それならこれ以上は……」


『ガウガウ』


「え」

「うわぁ!?」

 突然兵士達が茶色い小さな何かに吹き飛ばされた。

 小さいのもあるが、あまりに素早い動きと混乱する兵士達のせいで、それが何かよく分からない。

「くっ」

 ノエルは只者ではないと感じ取り、正体を隠す為に使っていた鉄の短剣ではなく、少女から貰った黄金魔剣を抜き放つ。

 その剣の魔力に、一瞬動きを止めたその茶色い乱入者に向けて、ノエルが矢のように飛び出した。

「たああああああああああああっ!」


『……(ひょい)』

「なっ」

 だがその切っ先は、茶色い乱入者に届く寸前、割り込んできた白い物体に、いなすように逸らされて大地を抉った。

『ガウガウ』

『……(こくん)』


「クマと…ウサギのヌイグルミ……!?」


「うわああ!?」

「なんだっ」

 今度はどこかから軍用の馬車が突っ込んできて、反乱軍の兵士達をなぎ倒した。

 反乱軍を攻撃したように見えたから味方なのだろうか? だがその怪しすぎる動くヌイグルミへ戸惑ったように剣を向けたノエルの瞳に、馬車の扉が開いて、どこか懐かしい金色の輝きが映った。


 記憶に残る、さらりと流れる煌めくような黄金の髪。

 記憶にある、深みのある意志の強さを示す金色の瞳。

 記憶にあるよりも……少し大人びて、蕾から可憐に花としてほころび始めた、神が創りし人形のような美しい顔立ち……彼女こそ。


「ルシア……っ!?」




次回は勇者様との再会。


登場人物表、付けたほうがいいですか?

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― 新着の感想 ―
それがあまり苦痛と感じなくなってきた > それはMという精神的な病かも知れません。
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