4-02 勇者になりました ②
さよならシリアス。
国家連合軍作戦司令部。それは人間、エルフ、ドワーフと言った【光の勢力】側の国家が協調し、【闇の勢力】に対抗する為の国家連合組織である。
各国が予算を払い、国家連合に所属する国家が危険に曝された時は、在中軍によって迅速な救援と支援が行われる。
このような組織の場合、小国にとっては有益であるが、自力で防衛撃退可能な大国にとってはそうであるとは限らない。
だが、この国家連合軍には、大国でさえも……いや、勇者を擁する四大国だからこそ無視出来ない事柄があった。
「セフィラ参謀、ルクテル国への出立準備が整いました」
「うん、ありがと」
報告に来た兵士の言葉に参謀と呼ばれた女性――まだ二十代前半の美貌の参謀が微笑むと、若い兵士の頬が赤くなる。
闇の勢力が人間側の国を落とし、国家連合軍も多くの兵を北方へ送る為に慌ただしく動いていた。
それに伴い国家連合軍だけでなく、各国も協定により軍を派遣し、四人の勇者さえも前線司令部となる小国ルクテルへ向かっている。
「いえ、セフィラ参謀に来ていただきませんと、勇者様達がその……」
「うん、いいわ。わかってるから。……ホントに困った人達ねぇ」
まるで見本のような女性らしい仕草と、困ったように腕を組むだけで盛り上がる胸の質量に、男性だけでなく女性も思わず見蕩れていた。
「それじゃ準備をお願いね」
「は、はいっ」
見蕩れていた兵士に声を掛け、セフィラは自分の準備の為に自室へと向かう。
国家連合軍作戦司令部参謀セフィラ。
この若さで要職に就くこの女性は、この世界で唯一、あまり仲の良くないと言われる勇者達に信頼され、言葉一つで纏めることが出来る国家連合の要となっている存在であった。
「……新しく来た“聖女様”が使える子だといいんだけど」
***
拝啓、聖王国のお父様、お母様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。
そちらでは冬だと思いますが、お変わりないですか? こちらでは北に赴かない限り暖かな陽気に恵まれ、私の従者達も、海で水に戯れながら水死体の魂を一本釣りして、食の細い私の為に食卓に花を添えてくれております。
ぶっちゃけ、出来ればそろそろ聖王国にも戻りたいのですが、こちらの事情でなかなか顔を見せる事が出来ずに心苦しく思っております。
現在ご厄介になっている国では良い海産物が捕れ、一日23時間就労中の社員達が一生懸命作っている干物をお土産に出来そうです。
そんな訳で、こんにちは、ユールシアでございます。
「……返信が来ない」
聖王国からではなくて、闇の勢力側に出向しているリンネに“メール”を送ったのですけど、返事が来なかった。
今のところ連絡手段は、柚子の祖父でもあるギアスと“血の回線”を通じて、文字のメッセージを送るしか出来ないのでとても面倒くさい。
ギアスに直接連絡してみても、『ガウガウ』と言う文面しか戻ってこなかった。
……いや、ちょっと待って。
ガウガウとかメーセージ出来るなら、ちゃんとした文章を書こうよ、じいちゃんっ。
素なのか、幼児化しているのか、本気でボケているのか判断出来ないんですけどっ。
「……まぁいいか」
地の勇者カンちゃんと契約を済ませて北国から帰ってきたら、人間国家の小国が、闇の勢力側に落とされていた。
たぶんリンネ達が何か知っていると思うんだけど、何故か連絡が付かない。
三人とも、まだ繋がりを感じるから、身の危険があった訳ではないと思うけど、何をやっているんでしょ?
「姫様っ」
さてどうしようかと、従者や大地達と城の中庭に佇んでいると、私にあてがわれたお城の侍女さんの一人が、私を見つけて駆け寄ってきた。
……異世界の人間を大っぴらに『姫様』呼びして大丈夫なんでしょうか。
まぁ、私は悪魔なんですけど。
「良かった、戻られていたのですねっ」
「ええ、先ほど。ところで詳しい事情は分かりますか?」
侍女さん……の名前はなんだっけ?
二十代後半の綺麗系の侍女さん(独身)で、私に対して悪意がないのもあるけど、この年頃の女性は、私が小さい頃からお世話になっていた、あの『メイド三人娘』を彷彿とさせるので、お城側のお目付役だとしてもどうも対応が甘くなる。
まぁ、あの三人も今は人妻なので、もう“娘”とは呼べないね。
人妻は女騎士並みに良い響きです。
もう一年以上顔を見ていないし、帰ったら赤ちゃんでも居るかも知れません。
「はい、その件で姫様をお捜ししていました」
「それで状況は?」
国が一つ落とされたのなら、【勇者】も派遣されるでしょう。
まずは闇の勢力側との勢力線に近いカンちゃんが動く事になると思うけど、他の勇者も静観は出来ないと思う。
国が落とされたと言っても戦争で全滅させる事なんてほぼ不可能なので、難民や怪我人も大量に出ているはずで、そうなると【聖女】なんて呼ばれる“広告塔”の私が呼ばれる可能性は高い。
そんな事を考えながら話の先を促すと、侍女さんは私を見つけられた事で落ち着いたのか、緩やかに頭を下げる。
「はい、それに関しまして、取り急ぎ、王家の方々より勇者キョージ様と姫様にご相談があります。つきましては明後日の昼頃、会食にお呼びするよう申しつかりました」
「……明後日?」
……え? マジに? 戦争始まったのに、今からでなく明後日の昼にご飯食べながらとか、どこのお貴族様ですか。うん、貴族だったね。
いや、私だって貴族で、一応は6位の王位継承権を持つ身だけど、うちの国王様は、単純なほど即決人間だったからある意味新鮮な感じです。
侍女さんも当たり前のようにそう考えているみたいだし、ティナやニアも、私に話を通すのだから場を整えて当然みたいに頷いている。
……あれ? 私がおかしいの?
「……えっと、ユルちゃんは間違ってないと思うの」
瑞樹がそんなことを言っていたので、少しだけホッとした。
後から聞いてみると、王族との会食なんて、聞いてからドレスを制作する場合もあるから、明後日とかはとんでもなく大急ぎの部類らしい。
……貴族すげぇ。聖王国ってそこら辺は緩やかだったんだね。
「いえ、ユールシア様の周りだけかと存じます」
そして次の日、合流した執事悪魔のノアが、そんな貴族事情を説明しつつそんな事を口にした。
現在私は、お城で侍女さん達数人に着せ替え人形にされています。
もちろん男の子のノアは、衝立の向こう側です。
明日の会食に着るドレスを選んでいるんですけど、いつも同じ黒銀ドレスばっかりだと『聖王国の姫』としては宜しくないらしい。
でもこれから布を選んで作ってもらう訳にはいかないので、一流ブランドの既製品を手直しして貰っているのです。
なんか勿体ないなぁ……。黒銀ドレスは汚れないし、再生機能もあるし、そもそも私の身体は汗腺自体がほとんど無いから身体もあまり汚れないのに。
そうそう、関係ない話だけど、身長が160センチに到達しました。
ひゃっほーっ、上手くいけば十代後半までに、念願の身長170センチまでいけるかも知れない。柚子のままだったらまず無理だったね。
胸部装甲も順当に厚みを増しております。……何故か一番防御力が高いのは一番背の低いファニーだったりする。一番薄いのは思っていても言わない。
「ティナちゃんもすぐに成長するよー?」
「何故、疑問系なのですか」
こらこら、ファニー。追い詰めるのは止めなさい。
そして扉近くで護衛任務に就いているニアが、サキュバスなのに装甲が厚くない自分の胸元に手を当て、静かに暗黒闘気を醸し出していた。
結局のところ、ドレスは決まりませんでした。
何故か私に甘い侍女さん達が、明日の会食を延期して貰いましょうとか言い始めたので、適当にこれで良いと決めようとしたら、従者達が待ったを掛けた。
「問題ありません。お任せ下さい」
そう言って、ノアがどこかから取り出した銀縁メガネを掛けてニヤリと笑う。
めちゃくちゃ怪しい感じだけど、15才の美少年執事であるノアに、若い侍女さん達がウットリとしていた。この世界でも『メガネ男子萌え』と言う“業”の深いジャンルはあるみたいです。
「そう言えば……ノア。リンネ達から何か聞いていないの?」
「多少頼まれごとはしましたが……特に問題はありませんでした」
「ふぅ~ん……」
……ノアはまた、裏方でなんか企んでやがるな。まぁ、実害無いならいいんだけど。
そんでドレスなんだけど、ノアとニアの双子が作成するらしい。
今の黒銀ドレスも、ティナとファニーのはっちゃけメイドコンビが作った物だから、双子でも作れるとは思うんだけど、ニアは私並に不器用だけど大丈夫なの……?
元々裁縫スキルはティナだけが持っていた感じなんだけど、双子も私にドレスを貢ぐ為に影で練習していたみたい。
……夜中にひっそり裁縫の練習をする悪魔か。
うちの社員達もそうだけど、それでいいのか悪魔達。
「こちらが完成品になります」
そして翌日、と言うか、会食当日。朝からお風呂でファニーにピッカピカに磨いて貰ってから、ノアからドレスを見せて貰った。
ちなみにお風呂でティナにお世話をして貰わないのは、イヤらしい手付きで触ってくるからです。
「真っ白なドレスとは……」
正確には白金か……めちゃ派手です。
従者達は髪の毛を糸に変えて服を作るから、双子のブルネットの髪だと茶色か赤になるかと思っていたんだけど、何故か真っ白だった。
まぁ、それを言い出したら、金髪のティナが作ると何故真っ黒になるのか色々考えたいところだけど、とりあえず問題はない。……と思う。
「私、頑張ったんですよぉ」
「よしよし、よく頑張りました」
同じ【ぶきっちょスキル】持ちとして、頑張ったニアを頭を撫でて褒めてあげる。おそらくは、ほとんどノアが作ったとしても……っ!
ドレスの形は、横チチが見えないギリギリくらいのちょっと大胆なアメリカンスリーブで、スカート部分は薄手の布やレースで何重にも襞になっていた。
この形のドレスは、柚子の時にも着ているので特に違和感はない。
……違和感はないはずなんだけど、何だか、おかしな感じがする。
黒銀ドレスは“呪われた装備”なので今はゴシック系の黒のチョーカーに変形しているけど、意外とアクセントになって良い感じです。……が、
……もしかして、この白金ドレスも呪われていたりするのかも。
そうは思っても悩む間もなくファニーとティナと侍女さん達に、パパッと着替えさせられて、何故か髪もうなじが見えるまで結い上げられた。
「ささ、姫様、ご案内いたします」
「……ええ、よろしくお願いしますわ」
何でしょう……侍女さん達の視線が宙を泳いでいる。
会食の場所は王族のいる場所でするらしく、私が“隔離”されている場所から少し離れていた。
離れていると言っても、同じお城の敷地内だから10分も歩けば到着するんだけど、その途中の中庭で騎士達と訓練している大地や燈火達を見かけた。
「あ、ユルちゃ……」
私に気付いて声を掛けようとした瑞樹が途中で固まった。
バキッ、ゲショッ、ドシャッ、と変な音が聞こえて、訓練をしていた騎士や大地や風太などの私に気付いた男性陣が、真っ赤な顔で視線を逸らして、訓練相手の木剣を受けてのたうち回っていた。
……いきなりカオスっ!
これは、ひょっとしなくても私のせい?
さっき鏡を見た時には、ちょっときわどいけど普通かな……と思っていたんだけど、
「……ぅわぁ、ユルちゃん、エロぃ」
「……へ?」
何事かとドレスを見直し、エロぃ発言をした燈火の視線が背中に向けられているのを見て、近くの窓硝子に映してみると、
「………」
ドレスの背中の部分すべてが、お尻の近くすれすれまで、細かなレースでスケスケになっていた。
「その部分は、私が頑張りましたぁ」
そんな言葉を自慢げにドヤ顔で言い放つニアを、私は真っ赤な顔で、床石に罅が入る速度ではっ倒した。
後ろから見ると上半身はほぼ肌色です。
逆に12才という年齢が背徳感を醸し出して、大人に直視出来なくさせていますね。
次回は、王族との会食です。





