4-03 勇者になりました ③
前世はともかくユールシアになってからは、普通に侍女さん達からすっぽんぽんで丸洗いされていたし、12歳になった今でもファニーにお風呂でお世話をして貰っているので、羞恥心はかなり緩い状態になっていますが、あくまでそれは“同性”だからです。
……まぁ、同性でもイヤらしい手付きで素手洗いしようとするティナは別ですが。
それでも男性から見られるとなると話は違う。
いや、最初から気付くべきでした。今回ノアとニアが作った白金ドレスは黒銀ドレスと一緒で『下着一体型』ですけど、お城の侍女さん達もコルセットさえ着けないことに何も言いませんでしたから……。
さすがに露出好きではないので、こんなお尻近くまで背中全部が花柄のレースになっているのは、自分でも見ても顔が熱くなる。胸は熱くならない。逆に薄い本が厚くなりそうなこんな衣装は困る。
今でも若い情熱溢れる騎士さん達が見てないように装いながらもチラチラ視線を向けてくるし、大地は燈火にねじ伏せられて目隠しされていた。
なにその猥褻物扱いは……
背中が見えるように髪を結い上げた侍女さん達も確信犯かコンチクショー。
「……あら?」
どうにか“変形”でも出来ないかと魔力を流してみたら、白金ドレスではなくチョーカーに変形していた黒銀ドレスが広がり、背中と同じレース柄の“ショール”に変形して私の肩にふわりと掛かった。
「……無駄に高性能ね」
「そんな機能が有ったのですか」
……え? ティナ、あなたが作ったんでしょ?
そんな感じでどうにか背中を隠して……まだちょっと腰辺りが見えているけど……何とか会食するお部屋に到着しました。
「ゆ、ユールシア様、どうぞお入り下さい」
執事さんでも侍女さんでもなく、上級騎士っぽい男性が扉を開けてくれる。
緊張しているのか怯えられているのか、どうもぎこちない。
チラチラ背中を見ないで下さい。
「お待ちしておりましたわ、ユールシア」
中に入るとセイル国の第二王女であるビアンカが出迎えてくれた。
久しぶりだねビアンカちゃん。同じお城の中にいるのに滅多に出会わないのは、単にお城が広いのか、彼女が私を避けていたのか、それとも……
「やぁ、ユールシア姫、久しぶりですね。今日はまた素敵なドレスで見違えてしまいました」
「ビアンカ様もキョージ様もお変わりなく」
それとも、この水の勇者が情報漏洩を畏れて遭わせないようにしていた……とか。
私が前に出ると室内にいた騎士の一人が私を席まで案内してくれる。
「あら、あなた……」
「……以前は失礼した」
その人は、召喚されてすぐにこちらを侮って恩坐くんにボコボコにされた、ボンボン騎士だった。
その表情からは侮りは消えていたけど、まだ何か思うところがあるのか、顔を顰めながらも顔を赤くして何かを耐えている。
うん、良く分からん。
敵対するなら容赦しないけど、今のところはそんな感じはしないので私から特別に思うところはない。
何か言葉を返すべきかとも考えたけど、『お身体は平気ですか?』とか、ボコった恩坐くんの主が言っても嫌味でしかないので……。
はっ、もしかしたら。
「頭皮の治療なら出来ますよ……?」
「まだ、問題ない……っ」
あら、失礼。
でもまだ若くても油断は大敵ですよ? 騎士のような身体を使う職業の人は、良い年齢になっても油っぽい食事を好むので、今の発言で身体ごと心が揺れている、ビアンカの後ろにいる年配の騎士さんみたいになりますからね。
「俺のことはいいので座っ、…てください」
「わかりましたわ」
彼が椅子を引いてくれて私がそっと腰掛ける。その時にショールが勝手にチョーカーに戻ったので、騎士さんから動揺する気配が伝わってきた。
……突然変形したからだよね? 私の背中のせいじゃないのよね?
ちょっぴり頬が赤くなるのを自分でも感じながらも、表面上は冷静に振る舞えたのではないでしょうか。幼い頃から心がけていたので、私もだいぶ“人間らしく”振る舞えるようになりました。
20人は一度に食事出来るような大テーブルに、腰を下ろしているのはたった四人。 私の右隣にキョージ。その向かい側にビアンカ。そしてビアンカの隣、私の正面に座っていたのは一人の小柄な男の子でした。
「姉上、私を紹介して下さいっ」
その10歳くらいの金髪の美少年は、待ちきれないようにビアンカを『姉上』と呼んで、キラキラしたお目々を私に向けていた。
「はしたないですよ、フィル。失礼、ユールシア。この子は私の弟で第一王太子の…」
「フィヨルドですっ、初めましてユールシア姫っ」
フィヨルドくんは姉の言葉が待ちきれないように、食い気味に挨拶をしてくれた。
なるほど……従者達が調べた情報通りの外見と性格ですね。
彼が遅れて男児として生まれてきたせいで、王位を狙っていたのに他国に嫁がされた第一王女にいまだに恨まれている、あの第一王子で間違いなさそうです。
「ええ、お噂はお聞きしておりますわ、フィヨルド様。タリテルドのユールシアと申します」
「私の噂ですかっ、あ、私のことはどうかフィルと…」
「きちんと座りなさい、フィル」
顔を赤くして前のめりになるフィヨルドくんに、ビアンカが顔を顰めながら注意した。
「す、すみません、姉上……」
やはり気軽な姉弟関係ではなさそうですね。うちの親戚関係は、どいつもこいつも権力に淡泊だったのでちょっと新鮮に感じます。
ビアンカ自身は王位を狙っているのかな? 果たしてそれは彼女自身の意志なのでしょうか。
なんとなくキョージのほうをチラリと見ると、彼も同時に私を見て、口の中がジャリジャリしそうな“甘い微笑み”を浮かべた。
簡単に言うと、凍らせた練乳に衣を付けて油で揚げた後に上からグラニュー糖をまぶしたような笑みでした。
「焼き肉五人前の笑みですね」
「……さすがにそれは良く分かりませんね」
主にカロリー的な話です。
それから銀のカトラリーと白磁器の食器が並べられ、前菜が来た時点でセイル王は来ないのだと私も理解した。
王族が二人もいるから充分だと思ったのか、それとも会うたびに私も【威圧】していたから畏れられたのか……。
いや、私も無差別に威圧して脅したりしていませんよ? ホントウデスヨ? 夜中にいきなり閨に呼び出そうとされたからじゃないですよ?
……毛根が死滅すればいいのに。
前菜はきざまれた彩りの良い野菜と魚介類のゼリー寄せ。お次は海草と茹でた根菜のサラダで、三番目はコンソメっぽいスープ。パンは普通の白いパンと黒パン…に見せかけた黒糖のパンで、好みによってはパスタも付いた。
次は見たことも食べたこともない食感と見た目のお魚で、柑橘系のソースが掛かっていた。
その後に酸味のない果実のシャーベットでおしまいかと思っていたら、ラムっぽい肉料理が出てきてそれがメインらしい。
その次はこの地方の見たこともないフルーツ盛り合わせが出てきて、その後にやたら甘いケーキが出て、その後に紅茶が来ると、さらに小さな焼き菓子が出てきた。
……味が分からないと軽い拷問です。昼から重い。
たとえ魂で味付けされていても、胃袋的に前菜とサラダとお魚でお腹いっぱいです。
「あ、あの…、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、元より小食なもので」
どれも二口程度しか食べなかったので、フィルくんが心配そうな顔をしている。
まぁあれだけの量だと、完食したのはキョージだけだったけどねぇ。
食事のお世話は入室が許可されたノアとティナがやってくれたけど、さすがに目の前で魂生搾りとかは無理でした。
「我が国としましては、闇の勢力の侵攻に対して、勇者キョージ様にセイル国軍とは別に対処をお願いしたいと思っております。……キョージ様、宜しいでしょうか?」
「ええ、ビアンカ殿下のお優しさに報いるよう、善処いたします」
「まぁっ、キョージ様ったら」
キョージの甘い笑顔と言葉にビアンカが頬を染める。
唐突に始まった茶番に私のお茶を飲む手も思わず止まる。
今の会話の優しさってどこ? 頭痛薬に半分ぶち込まれた胃薬のこと? この1分程度の話の為に呼び出されたのか。
「……えっと、ユールシアにはキョージ様の戦列に加わっていただきますわ。あなたには、セイル国の勇者の共をする【聖女】として動いて貰います」
私が笑顔のまま無言の威圧を滲み始めると、ビアンカは慌てて私にそう言った。
それって、キョージの【勇者パーティ】の一員になれってこと?
バラバラに動いたほうが効率は良い気がするけど、セイル国としては他国に【勇者】と【聖女】がいる完璧な勇者パーティを見せつけたいのかも。
「そうですね……構いませんわ」
「ほ、本当ですかっ」
私がそう言うと、ビアンカは王から厳命されていたのかホッとした顔をして、キョージは逆に軽く目を見開いていた。私がキョージの下に入る形になるので、私が拒否すると思ったのでしょう。
でも、私のほうもそろそろキョージと接触しても良い頃なので問題はない。キョージと一緒にいるほうが、まだ見ぬ『炎の勇者』やカンちゃんとも接触しやすいと思うし。
……そんな訳だから、ノアもティナも、控え室の二人も殺気を滲ませるのは止めなさい。体感気温が下がってフィルくんが怯えているから。
そんな中でも表情一つ変えずにキョージは立ち上がり、私に軽く頭を下げる。
「ではユールシア姫、これからよろしくお願いします。私の下になる形となりますが、立場は同等ですので、何でも言ってくださいね」
「ええ、キョージ様、わたくしもよろしくお願いしますわ」
何でもと言ったな?
さて北の戦場に行く名目は出来た。
後は……
「ユールシア姫っ、是非ともご無事でっ。帰られたら一緒にお茶をしたいですっ」
「ありがとうございます、フィル様。楽しみにしておりますわ」
彼を盛り立てるのも、この二人にとって嫌がらせになるかも。
「姫……私もあなた方の護衛で同行することになります」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
席まで案内をしたあの騎士も複雑な表情で私を見つめ……
「姫様、私も同行しますので、是非ともあの『秘伝の治療』を……」
あのビアンカの後ろに控えていた年配の騎士は、そっと輝く頭を私に下げて……セイル王国からまた輝きが一つ失われた。
じわじわと中年以降の男性信者が増えています。
次回、北の戦場へ向かいます。





