4-00 闇の双子
第四章です。まじめな説明が多めです。
異世界【テス】には、【闇の勢力】と呼ばれる者達がいる。
なぜ“闇”と呼ばれるのか。
それは彼らの種族が“魔”に属する“血”を持っているからだ。
闇の勢力とは、獣人、知恵のある魔物、黒エルフが主な種族である。
この世界の獣人は、一部の人間種族が永い年月の間、“魔力”を浴び続けることによって変質した結果、“魔物化”したものだ。
通常の場合、人間種は大量の魔力を受けても魔物化したりはせずに、大抵の場合は毒を受けたように衰弱して死んでしまう。
だが、ある地方の人間達は、魔力と共に【獣】の属性を取り込むことで魔物化して、それが【獣人種】の元となった。
魔物は元より動物が大量の魔力を浴び続けた結果、魔物化したものだ。
魔物は普通の生き物と違い、魔力を取り込むことで力を増し、長い寿命を得る。
力を増した魔物は、永い年月の中で“知恵”を得て、通常の種族とは違う“社会”を形成する“知恵のある魔物”となった。
そして黒エルフ。ダークエルフと呼ばれる存在は、エルフの原種である妖精種のハイエルフが魔物と交配した結果だと言われている。
人間と交わって生まれた子が白いエルフとなり、魔物と交わって生まれた子がダークエルフになったと言われているが、遙か神話時代のことなので定かではない。
だが、それが正しいとでも言うように、ダークエルフは白いエルフよりも強い魔力を持ち、残忍で狡猾な性質を持っていた。
それでも彼らが【闇】と呼ばれるほどの悪しき性質を持ったのには、その生活環境に問題があったからだ。
北の大国ゲンブルよりもさらに北。巨大な山脈で隔てた生き物がまともに住めない環境に彼らは生きてきた。
地上は常に吹雪が吹き荒れる極寒の大地で、地熱のある地下は薄暗く強い魔力を帯びていた。彼らは生き残る為に争い、少ない土地と食べ物を求めて、他者を喰らう必要があったのだ。
ただ争い奪うことしか知らない彼らを【闇の勢力】として纏めたのは、数千年前に突然現れた“異世界人”だった。
その異世界人は、偶然次元震に巻き込まれこの世界に漂流した者で、最初の【勇者】でもあったらしい。
何を見て、何を思い、何があってそうしたのか分からないが、地下に住む彼らの生き方に同情したその異世界人である【勇者】は、彼らを纏めて“光の大地”がある人間の住む土地を奪おうと考えた。
だが【勇者】は失敗した。
自分に知識があった為に、意思の通じる相手は“知性”があるのだと錯覚してしまったのだ。
彼が【勇者】であることを捨て、その地に住む者を【魔族】とし、彼が【魔王】として立ったのなら、光と闇、どちらに傾くにしろ違った未来もあったはずだ。
だが彼は、魔物達に“人”を求め、様々な部族や各種族の長達による“平等”を理念とする“共和制”にしてしまった。
それにより彼らは【闇の勢力】として纏まりながらも、本質的にはまったく変わらない、奪うことに特化した集団に成り果て……
彼らの幸せを願った最初の勇者は、彼らの手により命を奪われた。
最初の勇者の想いは、わずかながら残された。
それは一つに纏まること。だが、種族の枠を超えて纏まることを望んだ願いは、結局は獣人、魔物、黒エルフの三つの集団となり、それ以上に纏まることはなかった。
全ての者に公平である“平等”の理念は、持つ者から力ずくで奪うという、最悪の形で形成された。
彼らは人間以上に自分達とは在り方の違う者を受け入れず、人間から奪うと言うことで一つの勢力となっても、他の種族を利用することしか考えていなかった。
特にダークエルフは美しい外見と伴って選民意識が強い種族である。
一般人はそうでもないが、力の強い兵士以上の者達はその傾向が強く、貴族達は他を貶め見下し、奪うことしか考えていない。
そのダークエルフの王家の末に、まだ幼い双子の姫がいた。
黒王は双子に興味もなく戦いと享楽に耽り、兄姉である五人の王子や三人の姫達は、互いが後継者たらんと日々争いを繰り返し、双子の少女を顧みることはなかった。
金の髪で碧い瞳のルーネフィ。
銀の髪で紫の瞳のルーリミィ。
世話係からも見放され、生きる為に必死で足掻いている二人を、ただ一人、第一王女であるネフェルティアだけが、二人の姿を見つめていた。
「も、申し訳ありません……!」
「……また失敗したのね」
怯えるように畏まる侍女の言葉に、ネフルティアは軽く溜息を漏らした。
輝くような白金の髪は、銀髪である父王と第一王妃である金髪の母の、良い部分のみを受け継いだ結果だ。同じく金髪である第六王妃との子である双子が、父と母の髪色を両方受け継いだのとは対照的だった。
ネフルティアは艶やかな褐色の肌と高い知性を堪えた瞳、宝石にも例えられる美貌を持って父王の一番のお気に入りであった。
それ故、上に男児である二人の兄がいるが、愚かな兄よりも自分こそが次の王に一番近いと自負している。
妹である双子に手を出したのは気まぐれだった。
兄弟達の中であの二人だけが幼すぎた故に、後継者としての敵とはなり得ない。他の兄弟もそう考え、ネフルティアも気にも留めていなかった。
それにあの二人だけが兄弟の中で、生粋のダークエルフではなかったので、誰もがあの双子を後継者の候補とは認めていなかったのだ。
父である黒王が、気まぐれで攫ってきた白いエルフとの子供。
ネフルティアも一度だけ見たことがある白いエルフは美しい女性であり、父王は大層ご執心であったが、彼女が毒殺されてからは父王も双子への興味を失った。
王と血の繋がりはあっても、何の後ろ盾も持たないただの子供。
それでも成長して他の兄弟の傘下に入れば、それなりの発言権を得て、厄介のタネになるかも知れない。
殺すのは念の為。
もしネフルティアの傘下に取り込んだとしても、洗脳でもしない限り絶対に裏切らないとは限らない。
最初は食事に毒を混ぜた。だが長い時間を掛けて殺す毒の為か、運良く【毒耐性】でも会得したのか弱る気配も見えない。事故死に見える罠や、獣にも襲わせたが、すべて回避されてしまった。
そこに至ってネフルティアは双子の才能を疑う。
何も知らない、何も出来ない子供のように見えるのは、双子が自分達の才能を隠しているのではないのかと考えた。
ネフルティアは双子を調べ、ある事実を知ることになる。
暗殺された二人の母親――白いエルフは、兄弟の誰かの手に掛かったのではなく、ダークエルフ至上主義の者達によって殺されていた。
ダークエルフ至上主義とは言っても、黒王には絶対の忠誠を誓っている。次の王に他種族の血が混じることは許さないが、それは他の者にとっても同じ事で、あの双子が後継者となる可能性はほぼなく、王の不興を買って処刑されてまで殺す必要があったのだろうか?
ならばあの双子はともかく、男児が生まれた場合、後継者となる可能性があったのではないかとネフルティアは考えた。
そしてある可能性が浮かび上がる。
あの双子の母親は、【ハイエルフ】ではなかったのかと……。
ハイエルフは白エルフ、黒エルフ、双方の“原種”である。
稀に白エルフ同士の婚姻により、先祖返り的にハイエルフが産まれてくることはあるが、ダークエルフの場合はほぼ生まれることはない。
エルフ種はハイエルフに憧れを持つ。これは本能的に求めてしまう類のもので、どの家にも一冊は『ハイエルフ写真集』があるほどだ。
双子の母親がハイエルフであったなら、王が彼女をほとんど他者の眼に触れさせなかった理由も理解できる。
もしその存在が国民にバレていたら、毎日のように国民が集まり神のように崇めていただろう。そうなっていたら、国民の熱狂的支持によりあの双子が後継者となっていたかも知れない。
もしかすると王が享楽に耽っているのは、彼女を失った悲しみからではないのか?
王が双子を顧みないのは、彼女を思い出すのがつらかったからなのでは?
「……確実に始末するべきね」
王が正気を取り戻すまでにあの双子を始末する必要が出てきた。
狂信者である至上主義派はともかく、冷静なネフルティアでもハイエルフの娘だと思えば、あの双子が可愛く思えてくるほどである。
他の者ならあっさりと寝返りそうな事実に、……まだ仮定ではあってもその存在を許す訳にはいかなかったのだ。
そうして双子を始末すべく送り出した手練れの暗殺者は、戻ってこなかった。
「殿下……どういたしますか?」
傍らに控えていたダークエルフの女騎士――妙に肉感的で色気があるのは、最初の勇者がそうあるべきと定めたからだが――その女騎士が問うと、
「……そうね」
ネフルティアは長い睫毛を伏せて思考を巡らせる。
他の者に双子がハイエルフと関係があると知られるのは良くない。だから早めに始末はしたいが、性急に事を進めてネフルティアが手を下したと知られ、それから双子達のことを知られるのはもっと拙い。
「……誰かに罪を被って貰おうかしら」
***
それから数日後、闇の勢力の拠点である大空洞――その中心にある古い城に多数の人影が集まっていた。
その城は数千年前より存在すると言われ、一説には最初の統治者である【勇者】が建てたと言われている城だった。
故に聖域であると同時にここを手に入れた者が闇の勢力の王であるとされ、過去に何度も血が流された為に、ここ千年近くは封印され、誰も立ち入っていない。
だが今はその封印は解かれ、数百名の闇の者達が城の中庭まで入り込んでいた。
「ここにアレがあるのか……」
「……ああ、間違いなくあるはずだ」
ここに集まっていたのはダークエルフの第一・第二王子、獣人国の王弟と第三王子、そして彼らに従う貴族や騎士達である。
彼らは所謂、『負け組』の者達だ。高位の王位継承権を持っているが、才に乏しく、このままでは王にもなれず、下手に高位の継承権を持つ為に要職どころか命すらも危ぶまれている立場の者達であった。
彼らは藁にもすがる想いである伝説に飛びついた。
この古城を手に入れた者が次代の王である。そしてそれを補う為の【魔導兵器】がこの城の奥に封印されている――と。
もしそんなモノが本当にあるのなら、すでに誰かが手に入れているはずだ。だが巧みに流された“情報”により、彼らはそれを自分達だけが手に入れた秘密の情報だと思い込んでしまった。
この城の地下で、黒きエルフの王族の“娘”を捧げよ。
さすれば汝に統治者たる【力】を与えよう。
こんな曖昧な情報にすがるのもおかしな話だが、それだけ彼らが追い詰められていたのと、ネフルティアの情報操作が巧みだったからと言ってもいい。
ここに集められたのは、ネフルティアが双子を殺す罪を被せるべく集められた者達であった。
ここで彼らは双子を生け贄に捧げ、ネフルティアの想いのみが叶えられる。
………はずだった。
「さっさと来い」
「「………」」
兄達に腕を掴まれ、ネフィとリミィは強く握られた腕の痛みに顔を顰めながら、地下の祭壇へと投げ込まれた。
まだ五歳ほどの小さな少女達。その手にしがみつくように抱かれたヌイグルミに、獣人達の一部はわずかに罪悪感を感じて顔を曇らせた。
巨大な城の地下に設けられた古い祭壇。
生け贄を一人や二人捧げるにしてはやけに広く、王子達や騎士達はそれに違和感を感じながらも、得られる【魔導兵器】とやらが大きなモノなのだと、心の中の疑問を押し流した。
「喜べ、愚妹よ。お前達の命で、我らが大いなる力を得ることを誇るが良いっ!」
第二王子が剣を腰から抜き、双子達に向けて振りかぶる。
「死ねっ!」
………ぼと。
「………ぁあ……あああああああああああああああああああああああああっ!?」
第二王子の右腕が、ウサギのヌイグルミの伸びた耳で切り落とされていた。
痛みと衝撃で訳も分からず叫びを上げる第二王子に、横にいた第一王子も獣人の王族達も何が起きたのか理解できずに唖然として固まっていた。
そんな中、二人の少女の鈴音のような声が小さく流れる。
「クマさん」
「ウサギさん」
「「お願い」」
獣人もダークエルフも、騎士ならば人間の兵士数人分の実力がある。
彼らは通常ならば単独で【下級悪魔】さえ倒し、王族警護の上級騎士の一部は、数人なら【上級悪魔】でさえ倒せるだろう。
だが、それはあくまで“普通の状態”ならの話だ。
所詮は『負け組』の彼らに力のある騎士は存在せず、混乱、恐怖、得体の知れない未知の敵……一瞬の心の隙に躍り出たヌイグルミ達は、瞬く間に騎士達を倒し、その肉を喰らっていった。
しかも相手は、通常の【上級悪魔】の倍以上の力を持つ特殊個体で、【名】を持ち依り代を得て【顕現】さえしているのだ。
「「さよなら、兄さま」」
少女達の声に、第一王子が信じられないといった顔で血の海に沈む。
その後、数百人分の魂と血を得て、祭壇の間一面の壁に光の文字が浮かび上がる。
「……出てきた」
「初代勇者の……原初の秘術」
伝承は間違っていない。ただ解釈が違うだけだ。
王族の娘を捧げよ――これは、勇者の血を引く王族が、統治者として【勇者の秘術】を得る為の伝承で、王族としての強い魔力を捧げれば得られるはずのモノだった。
魔力は魂を含んだ血でも代用出来る。これを娘と限定したのは単なる初代勇者の趣味である。
そもそも最初から双子の掌の上だったのだ。
第一王女も兄達だけを騙して双子を殺すつもりだった。そもそもお伽話程度の伝承を
ネフェルティアは信じてもいない。
この伝承を意図的に流したのは双子だ。姉がそれを利用すると考え、逆に第一王女の企みを利用して、本当にある【秘術】を無理なく得ることが目的だった。
この伝承を調べるに当たって、黒猫に依頼された某執事悪魔の暗躍があったと言う。
こうして『双子の窮地を救う』悪魔に、闇の勢力は混乱状態に陥ることになる。
異世界人達は結構好き放題やってますね。
次回は双子のお話。幼女成分補充。





