葬儀の席
印刷所を営んでいた男性の葬儀には、職人と取引先の人々が集まった。弟は受付に立ち、訪れた人へ礼を言った。兄が病気のため仕事を離れたころ、会社が続くか分からない時期もあった。その後、久世の手術を受けて帰ってきた兄は、毎朝誰より早く工場へ来ていた。今日は同じ朝を迎えることができない。
親族の中には、手術を受けさせるべきではなかったと話す人もいた。弟は反論しなかった。兄が治療後にどれほど嬉しそうに働いたかを知っていても、殺害された事実は変えられない。誰かの悔しさを、兄の笑顔の記憶で消すこともできなかった。会場の奥では兄の妻が、一人ずつ弔問客へ頭を下げていた。
式が終わったあと、弟は職人たちと食事を取った。誰も仕事の話を始めなかったが、やがて一人が「明日の納品はどうします」と尋ねた。弟は予定を確かめてから、午後の作業だけ頼めるかと答えた。兄を失った日に仕事の相談をすることを、失礼だとは思わなかった。会社を続けてほしいと兄自身が言っていたからだ。
弔問客の中には、兄が回復後に再開した取引の担当者もいた。弟は名刺を受け取り、後日改めて連絡すると伝えた。仕事の縁もまた、故人が残したものだった。
帰り際、兄の妻は弟に小さな封筒を渡した。中には兄が書き残した印刷機の整備予定が入っていた。文字は驚くほど丁寧で、終わった仕事には丸印がついている。弟は受け取り、いつか職人たちへ見せると言った。妻は一度頷いたあと、封筒を渡した手を胸元へ戻した。
会場の灯が消されるころ、弟は玄関で最後の靴を揃えた。明日はまた印刷機を動かす。兄のいない職場には、しばらく違う音が響くだろう。弟は会社の鍵を確かめ、誰もいない廊下を一度振り返った。歩き出すまでに少し時間がかかった。




