静かな現場
郊外の一軒家で、男性の遺体が発見された。心臓に杭を打たれ、それ以外の外傷はない。争った形跡も見つからなかった。警察が本人の身元を確認すると、過去に久世の治療を受けていたことが分かった。事件を担当する県警は、すぐに御園たちと連絡を取り、資料の共有を始めた。
男性は手術前、重い脳の障害で数年仕事を離れていた。治療後は家業の印刷所へ戻り、帳簿を整える仕事をしていたという。発見者は朝の配達へ来た取引先の人だった。警察は事情を聞き取り、関係する人々へ不用意な推測を広めないよう説明した。誰もが落ち着いて話せる状態ではなかった。
御園は現場写真を確認し、他の事件との共通点を記録した。杭の位置と傷の状態はこれまでの事件と一致する。しかし犯人がどうやって家へ入ったのか、なぜ抵抗した痕跡がないのかは分からない。説明できない事実を、無理に一つの仮説へ押し込むことは避けた。
玄関には乾きかけた傘が一本立てられていた。家族はいつもそこへ傘を置いたという。榊は現場の記録を読み、必要なもの以外に意味を与えすぎないよう自分を戒めた。
榊は遺族との連絡を担当する刑事から、家族の希望を聞いた。今は取材を受けたくないこと、職場へ事件の詳細を広めないでほしいこと。警察にできる範囲で配慮を求め、必要な手続きを進めた。事件が起きた家には、まだ洗濯物が干され、玄関に仕事用の靴が揃っていた。
夜、御園は新しい事件番号を一覧へ書き加えた。被害者が増えたという数字だけで済ませたくはない。それでも数字を正確に記録しなければ、ほかの県の事件との関連さえ追えない。机には日常の写真と検視記録が並び、窓の外を救急車の音が通り過ぎていった。




