電話の向こうの声
春菜の携帯電話に、また見知らぬ番号から着信があった。出ないまま記録を残し、警察の相談窓口へ連絡する。担当者はこれまでの着信と照合し、必要な場合は通信会社への照会を検討すると説明した。犯人につながると決めつける根拠はない。それでも母を狙うような言葉を放置することはできなかった。
澄江は娘の様子を見て、電話が怖いなら自分も記録を手伝うと言った。春菜は母に余計な負担をかけたくなかったが、澄江は自分の暮らしに関わることだと答えた。二人は机に一冊のノートを置き、日時と内容を一緒に整理した。母が書いた文字は以前のようにはっきりしていた。
その後、澄江は園芸会の代表から連絡を受けた。次の集まりに参加できるかどうか尋ねられ、行きたいと答えた。春菜は反射的に心配そうな顔をしたが、代表がほかの参加者と一緒に帰ると申し出てくれた。澄江は娘へ、怖がる気持ちも分かるが、やりたいことを全部やめたくはないと話した。
澄江はノートの端へ、次に知らない電話が来たときの対応も書いた。春菜はそれを見て頷いた。怖いことを一人で抱えるより、二人で手順を確かめておきたかった。
夕方、春菜は仕事先の同僚と少し話した。母の病気が治ってから、気持ちが休まるどころか別の不安が増えたこと。同僚は休暇制度の手続きを教え、無理をしすぎないよう勧めた。春菜は礼を言い、仕事の残りを片づけた。家族を守るには、まず自分の生活も続けなければならなかった。
夜、澄江は庭の鉢植えを移動し、春菜を夕食へ呼んだ。窓から差す灯りの下で、二人は園芸会の持ち物を確認した。ノートにはまだ知らない番号の記録が残っている。それでも明日の欄には、母が選んだ花の名前も書かれた。




