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治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


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帰ってきた名前

島崎が目を覚ましたとき、最初に見たのは病室の白い天井だった。そばには佳代が座り、手を握っている。島崎は何かを言おうとして、しばらく呼吸を整えた。それから「佳代」と呼んだ。妻は返事をする前に泣き出し、看護師がそっと椅子を寄せた。長く失われていた名前が、普通の声になって戻ってきた。


翌日の診察では、久世が言葉の理解と発声を確かめた。島崎は質問へ答え、短い文章を読んだ。声はまだ疲れやすく、体力も戻さなければならない。しかし症状そのものは消えていた。久世は検査結果を家族へ説明し、退院後の生活について無理のない計画を立てるよう勧めた。


長男が見舞いに来ると、島崎はまず息子の名を呼んだ。長男は笑おうとしたが、途中で顔を覆った。島崎は「心配をかけたな」と言い、息子の背中へ手を伸ばした。手術に反対していたことを責める言葉はなかった。長男も謝ることはせず、父のベッド脇で明日の面会時間を確認した。


看護師は島崎へ水を渡し、喉を使いすぎないよう促した。言える喜びから次々と言葉を重ねる患者を、佳代は笑いながら制した。島崎は頷き、次に話すことを手帳へ書いた。


午後、佳代は筆記帳を持ってきた。島崎は頁をめくり、昔二人で行った駅の名前を一つずつ読み上げた。間違えた箇所では笑い、旅先の店がまだ残っているかを話した。佳代は夫の声を聞きながら、いつか今日の会話も大切な記憶になるのだろうと思った。嬉しさの奥にある恐怖は消えない。


夜、島崎は病室で朗読会の随筆を読み返した。看護師が消灯を知らせると、本を閉じて枕元へ置いた。「明日も読みます」と言う声ははっきりしていた。佳代は面会を終え、廊下で一度だけ立ち止まった。夫が自分の名を呼んだ響きが、まだ耳に残っていた。

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