手術室の外で
手術当日、佳代と長男は待合室で並んで座った。島崎は入室前に二人へ手を振り、言おうとした言葉を途中で諦めた。佳代はその手を目で追い、扉が閉まってからも動けなかった。窓の外では病院へ向かうバスが停まり、人々が順番に降りている。いつもの朝が続くなか、家族の時間だけが違って感じられた。
手術室では久世が画像を確かめ、器械出しの職員と確認を重ねていた。野崎は患者の状態を見守り、異常がないことを確かめる。何度経験しても、医療の現場には省いてよい手順がない。久世の手が進むあいだ、看護師たちは次に必要なものを整え、記録を残していった。
待合室の長男は仕事先からの連絡を断り、携帯電話を伏せた。父のことを考えれば不安は尽きないが、今できることは限られている。佳代は持参した筆記帳を開き、駅名の並ぶ頁を読み返した。そこには夫が若いころに書いた文字が残っている。手術が成功したら、どこへ行きたいかもう一度聞こうと思った。
昼を過ぎ、看護師が家族へ経過を伝えに来た。予定より時間はかかっていたが、必要な処置が続いているという。佳代は礼を言い、持参した水を口にした。長男は廊下を少し歩いて戻った。何もせず待つことも疲れるのだと、二人は初めて知ったわけではない。それでも今日の待ち時間には終わりが必要だった。
夕方、久世が現れ、手術は無事に終わったと告げた。佳代は息を吐き、長男は父の顔をいつ見られるか尋ねた。術後の観察が必要だと説明され、二人は頷いた。救われたことを喜びながら、説明を受けた未来が消えたわけではない。だが今夜、島崎は病院のベッドで目を覚ます。その事実だけは確かだった。




