四枚の検査画像
久世は島崎の新しい検査画像を並べ、経過を確認していた。言葉に関わる障害が進行しているのは明らかだった。助手の井沢は、本人が治療を望んでいるものの家族の意見が分かれていると伝えた。久世は画像を閉じ、次の面談では島崎本人から先に話を聞くと決めた。記録の数字だけで意思を測ることはできない。
面談の日、島崎は小さな紙束を持って来た。話したいことを家で書いてきたのだという。紙には『孫の名前』『本を読む』『佳代と旅行』と並んでいた。久世は一枚ずつ確かめ、それらが治療後に期待できることを説明した。だがその先に待つ殺害の事実を、説明から外すことはしなかった。
佳代は、夫が本当に理解しているのか確かめたいと言った。久世は夫婦へ時間を渡し、必要なら別の医師にも確認してもらえると告げた。島崎はゆっくりと自分の名前を書き、続けて『こわい』と記した。佳代はその字を見て泣いた。怖さを知らないから望んでいるのではない。そのことだけは、はっきり分かった。
午後、相談員が家族と個別に話した。長男は一年という期限を受け入れられず、父の希望に反対していた。相談員はその気持ちを否定せず、同時に本人の意思を聞く場を守った。島崎は長い時間をかけて、朗読会で声を出したいと伝えた。家族の間で静かな沈黙が続いた。
帰り際、島崎は朗読会の案内を久世へ見せた。次の集まりに間に合うかを尋ねるためだった。久世は治療後の回復経過について説明し、無理のない予定を勧めた。島崎は頷き、案内の紙を胸のポケットへしまった。診察室の外にはまだ患者が待っていた。誰もその場で人生を決めなくてもよい時間だった。




