店先の灯
商店街の会合では、秋の催しの配置図が広げられていた。三橋は食堂の出店場所を確かめ、準備に必要な机の数を申し出た。ほかの店主たちは久世の患者であることを知っていたが、まず商売の話をした。材料を誰が運ぶか、雨の日はどうするか。今ここで決めなければならないことが並んでいた。
会合が終わったあと、古い菓子店の主人が三橋に声をかけた。事件のことを怖いと思う気持ちはある。それでも食堂が開いたことで、商店街へ戻ってきた客もいると話した。三橋は礼を言い、妻と相談して無理のない参加にすると答えた。誰かの励ましだけで、出店の仕事が済むわけではない。
妻は容器や調味料の在庫を数え、帳簿へ記入した。三橋は仕込みの試作を始めたが、初めての味付けが濃くなりすぎた。妻に指摘され、二人で少しずつ薄めて調整する。失敗して笑える台所が戻ったことを、三橋はしみじみ嬉しく思った。病気の時は包丁を手放したまま、店の奥に座っていた。
会合の帰り、妻は近所の店へ寄って紙皿の値段を確かめた。三橋は荷物を持ちながら、去年はこうして二人で歩けなかったと話した。妻は短く頷き、次の店へ向かった。
夕方、催しを知らせる紙が商店街の掲示板へ貼られた。通りがかった子どもが屋台の絵を指し、母親に行きたいとせがんでいる。三橋はその声を聞き、何を出せば子どもも食べられるか考えた。辛い味は別にしよう、量の少ない弁当も作ろう。店を開く理由が一つずつ増えていった。
夜の店先で妻が提灯の試験点灯をした。オレンジ色の光が雨よけの庇を照らし、向かいの八百屋まで届いた。三橋は少し離れて眺め、明日の仕事を確認した。灯を消せば店は暗くなる。それでも朝になれば、また二人でシャッターを上げるつもりだった。




