↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/168

開店前の包丁

三橋の食堂には、朝の仕入れより早く常連の魚屋が顔を出した。新しい献立に合う魚が入ったという。三橋は包丁を研ぎ、妻と値段を相談した。病気のころは手を動かす自信がなく、仕入れを決めることすら怖かった。今は客の顔を思い浮かべながら、何を作るか考えられる。


妻は表の黒板へ日替わり定食を書いた。新聞で店を知った人が訪れる日もあるが、二人は大きな宣伝をしなかった。食堂を再開できた喜びと、その後に待つ事件の不安を、客寄せの言葉へ変えたくなかったからだ。店の看板は以前と同じ色で、開店時刻も変えていない。


昼どき、近所の会社員が同僚を連れて来た。味噌汁を飲んだ同僚は「毎日ここで食べたい」と笑った。三橋は注文を取りながら、商売を続けるには仕入れや掃除の仕事も必要だと考えた。今のように働ける日がいつまで続くか分からなくても、店に来る人へ中途半端なものを出すつもりはなかった。


試作した魚の身が少し崩れ、三橋は盛りつけをやり直した。妻は味には問題がないと笑ったが、三橋は客の前へ出す形も大切だと言った。二人で皿を替えて確かめた。


午後には商店街の役員が、秋の催しの出店について相談に来た。妻は無理をしない方がよいと言ったが、三橋はできる範囲で参加したいと答えた。催しまでの準備日数を数え、必要な容器や仕入れを紙に書く。人前で料理を出すのは久しぶりだ。考えるだけで胸が高鳴った。


閉店後、妻が黒板を消していると、三橋は余った煮物を小さな容器へ詰めた。近所の一人暮らしの老人に届けるためだ。妻は無理をしないよう言いながらも、一緒に歩くことにした。商店街の灯が一つずつ消える中、二人は容器を挟んで歩いた。明日の仕込みは、帰ってから相談すればよかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。