届いた色紙
千尋が病棟へ来ると、蒼は学校から届いた手紙を机いっぱいに広げていた。絵を描いた友人の名前を、療法士と一緒に確かめている。うまく呼べない名前は指で示し、分かってもらえると嬉しそうに笑った。千尋は手伝おうとしたが、蒼が自分で次の封筒を選ぶまで待った。窓の外では雨上がりの光が濡れた木々へ差していた。
担任から届いた連絡には、教室に蒼の席を残していると書いてあった。千尋はそれを読んで安心したが、登校する日が決まったわけではないことも分かっている。学校へ戻るための方法は、病気の状態と本人の気持ちに合わせて考える必要があった。病棟の職員も担任と連絡を取り、無理な予定を作らないようにしていた。
午後、蒼の父も面会に来た。仕事を休んで病院へ来ることにしたのは、妻だけに判断を背負わせたくなかったからだ。父は息子と絵を描き、紙飛行機を折った。蒼が大きな青い鳥を描くと、父は「飛べるかな」と尋ねた。蒼は両手を広げ、体ごと翼のように動かした。父は笑い、千尋もつられて笑った。
面会の終わり、両親は相談室へ移った。久世の治療を受ければ言葉は戻る。受けた人は一年以内に殺される。二人は同じ説明を聞き、それぞれ気になった点を尋ねた。答えられることと答えられないことがはっきり分かれ、夫は帰り際に深く頭を下げた。病院を責めても、選択の重みが軽くなるわけではなかった。
夕方、千尋は病室へ戻って蒼の机を片づけた。青い鳥の絵を一枚だけ選び、学校へ送る封筒に入れる。蒼は封をする前に、色鉛筆で小さな丸を描き加えた。千尋は何の印か尋ねたが、蒼は答えず笑った。意味が分からなくても、これは息子が自分で書いた返事だった。




