学校の返事
蒼が通っていた小学校では、担任が千尋からの電話を受けていた。長く欠席している児童のために、学校でできる支援を考えたいという相談だった。担任は教頭と養護教諭に話を伝え、本人が負担を感じずに友人とつながる方法を探した。戻れる日を決めつけず、今ある関係を守ることが優先された。
クラスの子どもたちは、蒼に手紙を書くことにした。担任は誰か一人に任せず、書きたい人が短く書けばよいと伝えた。好きな遊び、新しい給食の献立、校庭の木に来た鳥。蒼がすぐ返事を書けなくても構わない。机の上には色とりどりの封筒が並び、担任は一枚ずつ名前を確かめた。
病院で手紙を受け取った蒼は、一通目を開けるのに時間をかけた。文字を追うのが難しく、千尋がゆっくり読んで聞かせる。友人が描いた鳥の絵を見ると、蒼は自分の青い鳥を指した。千尋は二つを並べ、友だちも鳥が好きなんだねと言った。蒼は何度も頷き、封筒へ絵を戻した。
担任は手紙を送る前、子どもたちに返事を急かさないよう話した。友だちの体調が良い日も悪い日もある。子どもたちは頷き、封筒の表へ自分の名前を丁寧に書いた。
療法士は、言葉が出にくい子でも参加できる返事の形を提案した。絵、写真、短い録音。蒼は紙を選び、青い鳥を描き始めた。最初の線がうまく引けず消しゴムを使ったが、途中で投げ出さなかった。千尋は手伝いすぎないように椅子を少し離した。息子が自分で決めた返事を、学校へ届けたかった。
夕方、担任へ一枚の写真が届いた。蒼が描いた青い鳥を持って笑っている写真だった。担任は放課後の職員室でそれを見て、次の日に皆へ見せる約束を千尋と確認した。病室と教室の距離は変わらない。それでも紙と写真が往復するうち、蒼の机はまだそこにあると、皆が思い出していた。




