母の質問
千尋は息子の担当医と時間を取り、手術を受けなかった場合の見通しを詳しく尋ねた。担当医は現在の症状、今後の支援、言語療法で期待できることを一つずつ説明した。久世の治療以外にも、蒼の生活を支える方法はある。しかし元通りに話せる保証はない。千尋は内容を書き留め、曖昧なところを何度も聞いた。
医師は母の表情を見て、家族だけで抱え込まないよう勧めた。学校、福祉、療法士、病棟の相談員。それぞれできることが違う。千尋は今まで学校へ詳しい事情を伝えるのをためらっていたが、蒼が通う場所を失わないためにも相談が必要だと感じた。病気を知られることへの不安も、消えたわけではない。
帰宅すると夫が仕事から戻っていた。二人は食卓で資料を広げ、互いの考えを話した。夫は治るなら手術を受けさせたい気持ちが強い。千尋はまだ決められない。どちらも蒼を大切に思っているのに、言葉は時々鋭くなった。二人は途中で話を止め、息子の写真を見つめた。
夫は翌日、自分も病院の相談へ同席すると言った。妻から伝え聞くだけでは、恐怖ばかりが大きくなっていたからだ。千尋は予定を確認し、勤務先へ時間を調整する連絡を入れた。親が話し合うあいだにも、蒼の一日は病棟で進む。今日は折り紙の飛行機を遠くまで飛ばしたと、看護師の記録に書かれていた。
寝る前、千尋は息子から預かった青い鳥を棚へ飾った。翼の片方が曲がっていたので直そうとしたが、手を止めた。蒼が折った形をそのまま残しておきたかった。明日も病院へ行けば、蒼は自分で新しい鳥を折るだろう。千尋は灯を消し、明日の相談で尋ねたいことを枕元の手帳に書き加えた。




