捜査本部の窓
捜査本部では映像記録の照合が続いていた。榊が持ち帰った証言を基に、別の班が県境の道路や駅の映像を調べる。写っている人々の大半は事件と関係がない。御園は必要以上に個人を疑わず、捜査の範囲を明確にして進めるよう指示した。関係のない人の暮らしまで傷つけてはならない。
会議で若い刑事が、全ての事件に同じ犯人が関わっていると断定できるのか尋ねた。御園は証拠の積み重ねを示した。杭の打ち方、傷の位置、ほかの外傷がないこと、治療歴との一致。しかし似た手口を使う者が別に現れないと保証できるわけではない。決めつけずに調べ続けることが必要だった。
御園は被害者の一覧を開き、年齢や職業の欄を見直した。共通点は医師の治療を受けたことだが、それだけでは犯人の接近経路を説明できない。医療情報の漏洩があったかどうかも、関係部署が慎重に調査していた。患者の個人情報を守る必要と、事件の解決に必要な情報を得ることは、簡単には両立しない。
資料を片づける前、御園は連絡を待つ県警へ返信した。次の照会で必要な範囲を絞り、手間のかかる調査を重ねないようにした。共同で捜すことにも日々の段取りがある。
昼過ぎ、遺族から問い合わせの電話があった。捜査が進んでいるのか、次の被害を止められるのか。担当者は確認できたことだけを話し、見込みのない約束はしなかった。御園は電話の後で報告を受け、遺族に伝えられる情報の整理を命じた。知らないという返事を重ねることも、言葉を選ばなければ傷になる。
帰り際、榊は窓の外を見た。信号に従って人が渡り、自転車が脇道へ曲がる。どの人にも目的地がある。捜査資料の中でだけ動く犯人の足取りを、何とかこの普通の街へ結びつけたい。榊は翌日の訪問先を手帳に記し、机の灯を消した。




