最後の買い物
榊は被害者が通っていた町の商店へ足を運んだ。入口には季節の野菜が並び、店主が段ボール箱を片づけていた。女性は亡くなる二日前にここで紙袋と果物を買ったという。店主は控えの帳簿を出し、時刻を示した。榊は書かれた内容を写真に収め、当時の記憶と記録を区別して聞き取った。
店主は女性の回復を喜んでいた。病気の間は財布から小銭を出せず、買い物そのものを避けていた。それが手術後には毎週一人で店へ来るようになった。店主はその姿を誇らしく思っていたが、事件のあと、自分が何かを見落としたのではないかと悩んでいた。榊は答えられない質問に、安易な慰めを返さなかった。
商店街を歩くと、軒先に色紙の花が下がっていた。公民館の催しに合わせ、亡くなった女性が皆へ作り方を教えていたらしい。榊は飾りへ触れず、通りの角度と見通しを確かめた。記録には店の閉店時刻がある。そこから彼女が家へ戻る道には、人目の少ない場所もあった。
店の奥には女性が以前折った紙の花が飾られていた。店主はそれを片づけられないと言い、榊は無理に写真を撮らなかった。必要なのは今、店主の証言を正確に残すことだった。
昼食を取った食堂では、女性のことを知る客が声をかけた。病院へ行かなければよかったのかと問われ、榊は答えを出せなかった。治療で取り戻した時間と、殺された事実は別々にそこにある。捜査員がそのどちらかを消すことはできない。榊は警察への情報提供方法を伝え、名刺を置いた。
夕方、榊は御園へ電話し、聞き込みの内容を報告した。犯人を示す新しい証言は得られなかったが、被害者の行動を確かめられた。駅へ向かう途中、商店街の紙の花が風で揺れた。榊はそれを一度振り返り、次の列車の時刻を確認した。捜査はまだ終わらない。




