県境の資料
御園の机に、県警から届いた追加の捜査資料が積まれていた。被害者は久世の治療を受けた高齢の女性で、事件当時は県境に近い町で暮らしていた。検視記録には、心臓への杭による傷だけが記されている。家の中にも抵抗した痕跡がない。御園は一枚ずつ読み進め、最初の調書へ印をつけた。
資料には近所の人々の証言が収められていた。女性は毎朝庭を掃き、週に一度は公民館で折り紙を教えていた。治療前は手先が震え、紙を折ることさえできなかったという。御園は事件前の暮らしを追った。誰と会ったかだけでなく、誰が彼女の回復を知っていたのかも確かめなければならない。
榊は事件の日の列車と路線バスの時刻表を並べた。犯人がどう移動したかを知る資料は乏しいが、人間が通れる道をまず調べる。遠く離れた県で同じ方法が繰り返される以上、移動の記録は無視できない。御園は推測を調書へ書き込まないよう注意し、確認済みの事実だけを別にまとめた。
県警から届いた封筒の角には、長く保管されていた跡があった。榊は破れないよう開き、元の順序を崩さず書類を並べた。記録を扱う慎重さだけは、捜査が進まなくても保てる。
午後、県警の担当者と映像会議を行った。土地の事情をよく知る捜査員は、住民の生活経路を丁寧に説明した。御園は協力へ礼を言い、古い情報を再確認するための負担を減らすよう調整した。人員も予算も無限ではない。捜査が長引くほど、ほかの事件を抱える部署との連携が重要になる。
夜、御園は女性が折ったという紙の花の写真を見た。公民館の窓辺に並べられ、色が少しずつ違っている。事件の手掛かりになるかは分からない。それでも御園は写真の出所を記録した。誰かの最後の日だけを調べていては、その人がどんな日々を生きたかを見失ってしまう。




