自習室の約束
夏歩は友人の莉子と図書館の自習室で向かい合った。莉子は貸したノートの余白に、自分でも理解しきれなかった箇所へ印をつけている。夏歩はそれを見て、講義の資料と照らし合わせた。二人で考えるうちに答えの出る問題もある。病気の前はそんな時間を何度も忘れてしまい、莉子に申し訳なかった。
昼休み、莉子は卒業後の進路について話した。就職説明会、資格試験、研究室の募集。夏歩も関心のある分野を挙げたが、「そこまで生きていれば」という言葉が喉まで出た。言わずにいると、莉子が先に「今受けられる試験は受けよう」と言った。夏歩は驚き、すぐに頷いた。
大学の掲示板には来月の公開講座の案内が貼られていた。夏歩は手帳へ日時を記し、参加を申し込んだ。病院の説明書を読み返す時間はこれからも必要だろう。だが学びたいことのために予定を立てる権利も、自分にある。窓口の職員は普通の学生として申込票を受け取った。
莉子は借りていた本の返却日を夏歩へ確かめた。二人は手帳を並べ、同じ日の予定を記した。こうした些細な確認が、今では友人同士の普通の約束になっている。
帰りの駅で莉子は、夏歩に何かあれば連絡してほしいと伝えた。夏歩は「心配ばかりさせるね」と笑った。莉子は首を振り、心配することと一緒に勉強することは両立できると言った。列車が来るまで二人は来週の課題について相談した。電光掲示板に次の発車時刻が表示され、会話は自然に途切れた。
帰宅した夏歩は申込票の控えを冷蔵庫へ貼った。母がそれを見つけ、何を勉強するのか尋ねた。夏歩は説明しながら、自分の声が弾むのを感じた。母は過去に何度も同じ話を聞いたことがある。今夜は新しい約束だった。未来が短くても、その中へ予定を書き込むことはできる。




