次の診察券
朝の診察室で、久世は新しい患者のカルテを開いた。紹介状には進行する脳の異常と、家族が長く抱えてきた負担が記されている。廊下では診察を待つ人々が番号札を持ち、窓の外から街の音が届いていた。久世は画像を確かめ、必要な質問を書き出した。毎日の診療に、特別な始まりの合図はない。
そのころ、御園は捜査一課で事件資料を開いていた。新しい映像に決定的な手掛かりはなく、犯人の行方も分からないままだった。榊は聞き込みの予定を確認し、別の県警との連絡を取っていた。事件は解決していない。病院では退院の手続きが進み、街では仕事が始まり、人々の生活も止まらなかった。
受付の職員は、新しい患者の家族へ相談室の場所を案内した。手術を希望する前に、説明を聞く時間を十分に取れるようにしている。家族は何枚もの紙を受け取り、順番に目を通した。近くの椅子では、退院した人が次の検査日を確認している。治る人も、亡くなった人の家族も、同じ廊下を通ってきた。久世の診察室の扉は、そのどちらにも同じように開いていた。
澄江は庭の花に水をやり、春菜は出勤の準備をした。夏歩は大学へ持っていく本を鞄に入れ、三橋は食堂の仕込みを始めた。治療を受けた人々は、全員が一年以内に殺されると告げられている。それでも今朝の暮らしには必要な仕事があり、誰かが代わりにしてくれるわけではない。家族は互いを心配しながら、いつもの声を掛け合った。
診察室の扉が開き、新しい患者と付き添いの家族が入ってきた。久世は椅子を勧め、まず本人の言葉を聞いた。家族は時折話を補ったが、久世は患者が話し終えるまで待った。検査の内容を確かめたあと、彼は画像の一点へ指を置いた。窓から差す光の中で、患者は身を乗り出した。まだ誰も、その先の説明を聞いていなかった。




