一日の終わり
三橋の食堂は、雨の日でも客足が途絶えなかった。昼の営業を終えると、三橋は鍋を洗い、妻は店内の床を拭いた。以前と同じ仕事をしているだけなのに、二人には新鮮な時間だった。病気の間は、閉じた店の前を通るだけでもつらかった。そのシャッターが今は毎朝上がる。
午後、取材した鷺沢の記事が掲載された。三橋が作った料理と、再開した店の写真が大きく載っている。最後には治療後の殺人について触れられていた。記事を読んだ客が「頑張って」と声をかけた。三橋は礼を言い、いつも通り定食を出した。励まされることにも、心配されることにも、まだ慣れていない。
料理を作るあいだ、三橋は常連が何を注文するか少しずつ思い出していた。治療の前は発作への不安から、相手の話を十分に聞けない日もあった。今は厨房の奥から客の声を聞き、塩を控えてほしいという頼みにも応じられる。妻はその様子を見て、以前の夫が戻ってきたようだと思った。しかし戻った時間が長く続かないことも、同じ食堂の中にあった。
妻は記事を切り抜き、店の裏の引き出しへしまった。表に貼れば客がさらに増えるかもしれないが、二人はそうしなかった。店は食事をする場所であり、病院のことを知るために来る人ばかりではない。壁の献立表には、翌週から出す新しい定食の名前が書かれた。
夜、最後の客を見送ると、三橋は入口の鍵を閉めた。妻は翌朝の仕入れを確認し、休業日の予定を相談した。三橋は少し迷ってから、近所の公園へ散歩に行こうと言った。どこへ行っても恐怖が消えるわけではない。それでも二人は、閉店後の静かな店で明日の時間を決めた。




