駅前の聞き込み
御園は榊とともに、駅前の小さな商業施設で聞き込みを行った。別の被害者が事件前によく立ち寄っていた場所だった。店員たちは被害者の顔を覚えていたが、犯人につながる情報は持っていなかった。御園は同じ質問を繰り返し、少しでも曖昧なところがあれば時刻を確かめ直した。
昼時の施設には学生や会社員が行き交い、飲食店の前に列ができていた。榊は買い物客に道を譲りながら、防犯カメラの設置場所を確認した。映像が残っている期間には限りがある。事件から時間が経つほど、当日の細かな様子を調べるのは難しくなる。二人は必要な手続きを急ぎ、残された記録を確保した。
駅前の店主は事件のあと、閉店時に周囲を確かめる回数が増えたと話した。誰を警戒すればよいか分からず、知らない客の顔を見るだけでも身構えるようになったという。御園は不安を聞き取り、一般的な防犯の相談先を伝えた。事件が長く解決しないことは、遺族だけでなく町の人々の暮らしも変えている。捜査の資料には残りにくい変化だった。
休憩中、榊は「どうして毎回、同じなんでしょう」と尋ねた。御園はすぐに答えなかった。心臓に杭が打たれ、ほかに外傷はなく、被害者は久世の治療を受けている。犯人の動機を示す言葉は残されていない。分かっていることはそれだけだ。「分からないまま、調べるしかない」。御園は紙コップを捨て、立ち上がった。
夕方、二人は警視庁へ戻った。新しく確保した映像には、事件の前に被害者が店へ入る様子が映っていた。それ以上の手掛かりがあるかは、詳しい確認を待たなければならない。御園は映像を保全し、関係する時刻を記録した。小さな事実が一つ増え、事件の大きな空白はそのまま残った。




