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治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


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白い廊下の声

病院の食堂で、井沢は若い研修医が話す声を聞いた。「あの先生の患者は皆、死ぬらしい」。声はひそめられていたが、隣の席にも届いていた。井沢は箸を置き、話している二人へ向き直った。「皆、ではありません。手術を受けた方全員が、あとで殺されているんです」。研修医たちは黙った。その違いを笑い話にしてほしくなかった。


看護師長の木場は、井沢が戻るのを待っていた。病棟には手術を受けた患者からの相談が増えている。家の鍵を替えるべきか。遠方へ引っ越せば助かるのか。警察に毎日電話してもいいのか。どれにも確かな答えはない。木場は一つずつ相談窓口を案内し、退院前の家族と面談する時間を増やした。


午後の申し送りで、木場は患者本人に防犯の話をする際の注意点も共有した。脅かして従わせるのではなく、本人がどう暮らしたいか聞く。家族の希望が本人の意思と違う場合もある。井沢はメモを取りながら、朝の研修医たちの会話を思い出した。死ぬという一語で人をまとめれば、その人が今日できたことも、明日やりたいことも見えなくなる。


「守れないと分かっていて、相談を受けるんですね」と井沢が言うと、木場は病室の名札を指さした。「だからといって話を聞かない理由にはならないでしょう」。術後の患者は朝食を食べ、薬を減らし、歩く練習をする。今日困っていることが、明日まで持ち越されるとは限らない。看護師にできる仕事は、今日の分だけでも残っている。


夕刻、井沢は藤倉の妻から電話を受けた。夫が仕事場を見に行きたがっているという。危険だから止めるべきか、と妻は尋ねた。井沢は医学的な復帰時期を確認し、家族で話し合うよう勧めた。電話が切れたあと、手元の記録に「左手の動作良好」と書き足した。病室の窓から入る西日は、ほかの患者のベッドにも同じように差していた。

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