記録保管室
警視庁の捜査一課で、御園真琴は一枚の写真を机に置いた。住宅の寝室で発見された男性の遺体だった。心臓に杭が打たれ、その傷以外に外傷はない。室内に争った形跡もない。被害者は七か月前、久世の手術を受けていた。御園がこの事実を調べるのは初めてではなかった。
捜査資料の保管庫には、同じ特徴を持つ事件が長い棚を占めている。年齢も住所も職業も違う被害者が、同じ医師の治療を受けていた。犯行に用いられた方法は常に同じで、記録を照合した捜査員たちは同一犯の事件として追っている。それでも名前に結びつく手掛かりはなく、捜査は何度も壁へ突き当たった。
保管庫には、事件ごとの箱に被害者の生活用品の写真も収められていた。病院の診察券、買い物のレシート、読みかけの本。御園は必要な資料を取り出すとき、順番を崩さず元へ戻す。遺族に何度も話を聞き、警察にも探せないものがあると知っている。それでも事件を数字だけの列にしたくなかった。写真の向こうには、一人ずつ違う家があり、帰りを待つ人がいた。
若い刑事の榊が、被害者の最後の一週間を記した表を持ってきた。男性は仕事へ行き、スーパーで豆腐を買い、休日には孫に会っている。脅迫の記録も不審な送金も見つかっていない。「普通に生きていたんですね」と榊が漏らす。御園は頷いた。「だから普通の時間を全部調べる」。不自然な事件ほど、ありふれた日常のどこかから始まると信じていた。
窓の外で夕立が始まるころ、御園は病院へ照会文書を送った。過去の患者に関する必要な範囲の資料を、法的な手続きを踏んで求める文書である。すぐに返事が来るとは思っていない。署名を終えた御園は保管庫へ戻り、写真の裏に記された発見時刻を読み直した。時刻は違っても、現場に残る静けさだけは驚くほど似ていた。




