↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/180

空席の意味

遺族の会には、新しい参加者が一人増えた。夫を亡くしたばかりの女性で、会議室に入るなり入口近くの椅子へ座った。名前を名乗ったあと、しばらく話さなかった。司会の男性は無理に発言を求めず、ほかの人が近況を話すのを待った。集まる理由は同じでも、話せる時間は人によって違う。


ある参加者は、治療を受けた家族が生きていた間の写真を持ってきた。旅行先で撮ったもので、本人が笑っている。隣の女性は写真を見てから、夫が退院後に何をしたか思い出し始めた。散歩をして、スーパーへ行き、久しぶりに台所へ立った。話すほど涙が出てきたが、誰も止めなかった。


会場の予約を取る係の女性は、新しく来た参加者の連絡先を確認した。次回の案内を送るかどうかも本人に尋ね、返事を急がせなかった。集まりへ来たからといって、毎回参加しなければならないわけではない。悲しみを話すことで少し楽になる日も、誰とも会いたくない日もある。女性は「いつでも来てください」とだけ伝え、案内の紙を渡した。新しい参加者は紙を鞄へしまった。


途中で医師への怒りが話題になった。遺族の中には、久世の治療そのものを憎む人もいる。反対に、治療を受けたことだけは良かったと考える人もいた。司会の男性は答えを統一せず、それぞれの思いを聞いた。誰かの感謝が誰かの怒りを消すわけではない。どちらにも亡くなった人への愛情があった。


会が終わるころ、新しい参加者が初めて口を開いた。「まだ家に帰ると、夫がいる気がするんです」。それだけ言うと、また黙った。司会の男性は頷き、次の集まりの日程を伝えた。廊下へ出た女性は、ほかの人と同じ方向へゆっくり歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。