机上の予定表
市役所の田宮は、久世の患者の家族から受けた相談記録を見直した。防犯、生活費、介護、仕事。相談の内容はばらばらだが、制度の担当先が複数に分かれると、家族は何度も同じ説明をすることになる。田宮は部署を横断して使える案内票を作り、窓口職員へ相談した。
同僚は、特別な事情だけに対応する書式を増やすことに慎重だった。別の病気や犯罪被害に悩む家族にも支援が必要だからだ。田宮は頷き、すべての相談者が使える形に直すことを提案した。担当先の連絡先を整理し、本人の同意があれば説明を引き継げるようにする。小さな事務改善でしかないが、窓口へ来る人の負担は減らせる。
田宮の案内票には、電話の受付時間と必要な書類も書き加えられた。相談者が仕事を休んで窓口へ来たのに、書類が足りず帰ることになるのを避けたかった。上司は書式の細かさを指摘したが、田宮が例を示すと納得した。使う人が迷わないことが一番だ。完成した書類は試験的に数か所へ置かれることになり、田宮は印刷した紙を一枚ずつ整えた。
午後、春菜が再び相談に訪れた。母と出かける日が増え、仕事との両立が難しくなっているという。田宮は利用可能な制度を確認し、地域の相談先を紹介した。「何を選んでも不安は残りますね」と春菜が言った。田宮は「それでも、負担を少し減らす方法はあります」と答えた。春菜は資料を受け取り、帰り際に小さく礼を言った。
夕方、田宮は改訂した案内票を上司へ渡した。承認されるまで時間はかかるだろう。それでも机の上に積まれた相談記録を見て、何も変えないままでよいとは思えなかった。庁舎の閉庁を知らせる音楽が流れ、待合室の椅子が一つずつ空になっていった。




