↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/168

歩く速度

退院した夏歩は、母と駅まで歩いた。手術前は行き先を忘れることがあり、ひとりで遠くへ出るのが怖かった。今日は駅名を間違えず、乗り換えの表示も読める。母は少し後ろを歩き、必要なときだけ声をかけた。夏歩は歩く速度を落とさず、改札前でようやく振り返った。


自宅に戻ると、弟が磨いた運動靴が玄関に置かれていた。夏歩は靴ひもを結び、近所の公園まで歩いた。走るのはまだ先にしようと決めたが、地面の感触を確かめるだけでも嬉しかった。弟は隣で歩きながら、高校時代に姉が走っていた大会の話をした。夏歩は途中で笑い、細かい出来事まで覚えていることに驚いた。


駅のホームでは、夏歩が以前通っていた大学の広告が掲示されていた。新学期の案内には、少し前なら理解できなかった科目名が並ぶ。母は広告を見る娘の横顔を見つめた。手術前、同じ駅で何度も帰り道を教えたことを思い出す。今日は夏歩が先に正しい列車を見つけた。母は嬉しさを口にしようとしたが、声が揺れそうで「混んでいるね」とだけ言った。夏歩は頷き、母へ座席を譲った。


夜、夏歩は手術前に書きかけた手紙を取り出した。書かれている不安は消えていなかったが、今の自分は少し違う。知識が翌朝も残り、人との約束を忘れない。怖さまで治ってしまったわけではないのに、それだけで暮らしの輪郭が明るくなった。夏歩は手紙を封筒に入れず、机の引き出しへ戻した。


母は夕食の皿を並べながら、明日の予定を尋ねた。夏歩は大学へ連絡し、復学の相談をしたいと答えた。弟は帰りに新しいノートを買うと言った。三人はごく普通の予定を話し、それぞれ翌朝の支度を始めた。玄関の靴は、翌日もそこに並ぶことになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。