質問の続き
鷺沢は病院の広報担当へ取材を申し込んだ。患者数や医療技術について公開できる範囲を尋ねると、担当者は慎重に説明した。手術を望む人は増えているが、受けるかどうかを決められない人も多い。病院では意思確認に時間をかけ、家族への説明を何度も行っている。急いで答えを出すよう勧めることはしていなかった。
「先生は、なぜ続けるんでしょう」。鷺沢の質問に、広報担当は答えを急がなかった。久世が公に語った言葉は多くない。病院として説明できるのは、患者本人の意思を確かめて診療にあたっているということだった。鷺沢は、それが十分な答えではないと分かっていたが、誰かの推測を医師の考えとして載せるつもりはなかった。
病院の広報担当は、取材が終わったあとで患者向けの相談窓口を見に行った。係員は外来の予約と別の電話を受け、症状が進んだ家族からの質問へ答えている。記事を読んだ人が連絡してくることもあるという。広報担当は職員の負担を記録し、人員の調整を事務部へ求めることにした。外へ伝える言葉を整えるだけでは、病院の中で困っている人を支えきれない。
帰り道、鷺沢は病院前のバス停で澄江を見かけた。名前は知らない。年配の女性が若い女性と並んで時刻表を読み、どのバスに乗るか相談している。ただそれだけの光景だった。二人は笑いながら乗り込み、窓側の席へ座った。鷺沢は取材対象かもしれないとは思ったが、声をかけずに見送った。
編集部に戻ると、遺族の会から集まりの案内が届いていた。鷺沢は司会の男性へ連絡し、取材に入ってよい範囲を確かめた。会に来る人の顔や名前は、本人の了承なしには記事にしない。そう伝えると、男性は「それなら話を聞いてください」と答えた。鷺沢は予定表に日付を書き、質問を考え始めた。




