返信を待つ朝
榊は地方で聞き取った証言の確認を続けていた。文房具店の店主が話した時間と、被害者の帰宅記録には小さなずれがあった。事件と関係があるとは限らない。榊は当日の列車の運行状況を調べ、買い物の時間帯を慎重に絞り直した。思い込みで数分を埋めれば、後の調査すべてを誤らせる。
御園は資料を読み、店主への再確認を認めた。捜査本部には早く成果を出すよう求める声がある。だが同じ犯人による事件が続くほど、急ぎたくなる気持ちを抑えなければならない。「一つずつ確かめるしかない」と御園は言った。榊は電話をかけ、店主が忙しくない時間を尋ねた。
文房具店への折り返し電話で、榊は会計時刻が伝票の記載と一致することを確認した。店主が最初に話した時刻は少し曖昧だったが、記録で補えた。間違いを責める必要はない。人の記憶には幅があり、それを確かめるために帳簿がある。榊は電話を切り、表の該当欄を更新した。大きな事件の全体像を追いながらも、作業の一つひとつは地味で、人手と時間が必要だった。
相手は午後なら話せると答えた。榊が礼を言うと、店主は「お孫さん、まだあれを使っているでしょうか」と尋ねた。榊には分からなかった。被害者が渡すはずだった文房具は、遺族のもとへ返されたと聞いている。店主はそれ以上尋ねず、次の客を迎えるため電話を切った。榊はその言葉を聞き取り記録の最後に残した。
夜、御園は捜査員の報告を聞き終え、翌日の配置を決めた。事件に直接つながる新証拠はなかったが、確認済みの時間帯が一つ増えた。窓の外では雨上がりの舗道を車が走っている。御園は差し入れの温かい茶を飲み、次の資料を開いた。大きな答えが見えない日にも、調べるべき小さなことは減らなかった。




