窓口の行列
市役所の相談窓口へ、久世の患者の家族が訪ねてきた。住民票を移すことで身を守れるか。防犯設備への補助は使えるか。仕事を休む制度はあるか。職員の田宮は通常の窓口業務を続けながら、分からない相談を関係部署へつないだ。誰も同じ質問に十分な答えを持っていなかった。
田宮の机には、病気による介護負担が軽くなった家庭からの手続きも届いていた。介護サービスを縮小し、働きに出られるようになった人もいる。その一方で、患者がいつ殺害されるか分からない不安から、家族が仕事を辞めることもあった。窓口の書類だけを見ても、その選択が正しいかどうかは判断できない。
田宮の隣の窓口では、保育料の相談が続いていた。遠くで赤ん坊が泣き、職員が順番札を確認する。特別な犯罪の話をしている席でも、窓口の時間はいつもと同じ速さで流れていた。相談者が席を立つと田宮は椅子を拭き、次の人を迎えた。今度は転居のための手続きだった。誰もがそれぞれの事情で住所を変える。理由の違いを、受付用紙の一行だけで測ることはできなかった。
午後、春菜が母の外出について相談に来た。田宮は防犯講習と地域の見守り活動を紹介したが、犯罪を完全に防げるとは言えなかった。春菜は「それでも何かしたいんです」と話した。田宮は連絡先を書いた紙を渡し、必要なら警察へ相談するよう勧めた。春菜が帰ったあと、田宮は窓口の椅子を整えた。
夕暮れになると、庁舎の前で保育園帰りの親子が迎えのバスを待っていた。田宮は窓越しにその姿を見ながら、次の日の相談予定を確認した。自治体にできることは限られていても、その限界を理由に窓口を閉めることはできない。新しい制度はすぐには生まれず、今日の相談は明日も続く。




