休診日の花
久世には週に一日、手術を入れない日があった。その日は病院の裏手にある小さな花屋へ立ち寄る。店主の秋庭は久世を医師としてではなく、決まった時間に白い花を一本買う客として覚えていた。久世は花の名前に詳しくなく、店主に季節のものを選んでもらっていた。
店の奥には花の手入れをする台があり、秋庭の娘が水を替えていた。娘は最近、病院前の人通りが増えたと話した。騒ぎの理由は知っていたが、母親は花を買う人に事情を尋ねない。「病院には、いろいろな人が来るからね」とだけ答えた。久世は花を受け取り、代金を払って店を出た。
談話室の花を替える時間には、久世が手術中であることもあった。そんな日は秋庭の店から届いた小さな束を、職員が代わりに花瓶へ挿した。誰かが世話を怠れば水は濁り、花びらも落ちる。井沢は病棟の仕事をしながら、水の量だけを確かめた。患者が椅子へ座ったとき、机の上に清潔な花がある。それ以上の意味を勝手に与える必要はなかった。
その後、久世は病院の裏口から中へ戻り、病棟の小さな談話室に花を飾った。誰のためなのか職員も知らない。患者たちは時々そこへ座り、窓の外を見ながら食事の話をする。花を置いても病気は治らず、殺人を防ぐこともできない。それでも談話室に季節の色が一つ増えることを、久世はやめなかった。
夕方、病棟を訪ねた春菜が花を見つけた。母の次の検査について相談したあと、待ち合わせまでそこに座った。白い花びらが窓からの風でわずかに揺れている。春菜は誰が置いたか尋ねなかった。病院の中で理由を知りたいことは山ほどあったが、その花だけは、理由が分からなくても眺めていられた。




