いつもの薬局
病院向かいの薬局では、薬剤師の篠原が処方箋の束を揃えていた。久世の手術を受けた患者は、回復に伴って薬が減ることが多い。減薬は喜ばしいことのはずなのに、篠原はそのたび別の知らせを待つ自分を嫌悪した。投薬歴の画面から氏名が消えたとき、それが単なる転居なのか死亡なのか、調べる権限はない。
昼休みに藤倉が立ち寄り、以前の薬の残りをどう扱えばよいか尋ねた。篠原は医師の指示を確認し、不要になった薬を適切に回収した。藤倉は薬袋を捨てる前に、名前の印字をしばらく眺めた。病気の間、同じ袋を毎月受け取っていたのだ。篠原はその時間を急かさず、処理方法の説明だけを続けた。
薬局の奥には、かつて使われていた紙の台帳が残っている。篠原は新しい端末へ記録を移す作業を手伝い、同じ患者の名前が何年にもわたり並んでいるのを見た。病気が治れば処方は変わる。だが名前が消えた理由を、一つに決めることはできない。薬局の仕事は病院ほど派手ではなくても、暮らしの長い時間をそばで見守っているのだと篠原は思った。
「これで普通になったのかな」と藤倉が呟いた。篠原はすぐに答えられなかった。薬が不要になったことは確かでも、その後の人生を普通と呼べるかは別だ。奥の棚には風邪薬が並び、入口の自動ドアから外の車の音が入ってくる。篠原は「少なくとも、今の身体に必要な薬は減りました」と言った。藤倉は少し笑って会計を済ませた。
夕方、薬局へ下校途中の高校生が入ってきた。祖母の湿布を頼まれたという。篠原は使い方を説明し、袋を渡した。高校生は急いで自転車へ戻った。特別な名前も事情も知らない人々が、今日も薬局の前を行き来する。篠原は閉店前に帳簿を整理し、藤倉から回収した薬の数を確かめた。




