↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
156/252

手術しない診察

久世の診察室を訪れた高齢の男性は、脳の病気が進んでから好きだった将棋を指せなくなっていた。付き添いの妻は手術を希望したが、本人は迷っていた。久世は病状を確認し、治療すれば以前の機能を取り戻せると説明した。続けて術後の殺害についても伝えると、男性は将棋盤を見るように長い時間黙った。


「私は受けません」。やがて男性は答えた。妻が涙ぐみ、もう一度考えてほしいと言った。男性は手を握り、病気のまま過ごせる範囲で暮らしたいと伝えた。久世は断る理由を責めず、必要な支援を案内した。診察はそこで終わらなかった。今後困ることが増えたとき、どこへ相談すればよいかまで話し合った。


診察室を出た夫妻は、廊下の椅子へ並んで座った。妻は「戻ってくると思ってた」と言い、男性は「戻ったあとが怖い」と答えた。二人の言葉はそこで止まった。井沢が水を持って来ると、男性は礼を言って受け取った。妻も一口飲み、次回の相談日を確かめた。


妻は夫が昔使っていた将棋盤の箱を思い出した。駒の名前を忘れることがあっても、盤を前にすると静かに座っていられる。病気を治さない選択をしたからといって、楽しみをすべて手放すつもりではなかった。帰ったら盤を出そうと妻が言うと、男性は「一局だけなら」と少し笑った。


夕方、久世はその診療録を閉じた。治せる病気があっても、患者が治療を選ぶとは限らない。できるから行うのではなく、望まれたときに責任を引き受ける。その違いを、久世は毎日の診察で確かめていた。帰る前、男性が座っていた椅子が片づけられているのを見た。明日そこへ座る人にも、自分で決めるための時間が必要だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。