会議室に残る沈黙
東都中央病院の倫理検討会では、河井の殺害を受けて説明資料の再確認が行われた。院長は患者が受けた治療の成功と、その後の犯罪被害の事実を分けて記録するよう求めた。医師の一人は診療を止めるべきだと主張し、別の医師は治療を受ける自由を奪えないと応じた。どちらの声も低かったが、会議室は重くなった。
野崎は、手術室での麻酔管理に問題がないことを報告した。にもかかわらず患者が殺されている以上、医療の責任はどこまで及ぶのか。看護部からは、職員が患者へ説明する際の負担も大きいと意見が出た。久世は最後まで聞き、必要なら個々の患者の面談へ同席すると伝えた。自分が話さなくてよい理由はないと考えていた。
議論の途中、外科病棟から連絡が入り、担当医が一人席を外した。医療現場は会議の結論を待ってはくれない。戻ってきた医師は現場の患者が落ち着いたと報告し、それから再び資料を開いた。診療を続けるかどうかを話す人々も、その日の患者へ向かう責任を抱えていた。
会議室の端では、事務職員が発言者の名前と時刻を記録していた。医療の判断を下す立場ではないが、次回の検討で何が未解決だったか分かるようにする責任がある。休憩の合間、職員は冷めた茶を飲み、録音機の残量を確かめた。大きな議論も細かな作業に支えられていた。
会議の最後に院長は、同意が形式だけになっていないか再点検するよう指示した。治療を望まない人に不利益があってはならない。家族が反対する場合の相談も続ける。久世は議事録を受け取り、明日の面談予定を確認した。部屋を出ると、廊下で清掃員が濡れた床へ注意の札を置いていた。人を守る仕事は、病院のあちこちに分かれていた。




